世界選手権初優勝の宇野昌磨、コーチとの信頼関係が生んだ渾身の「ボレロ」|フィギュアスケート2021-22シーズン振り返り

北京オリンピックでの心残り
 記者会見や試合後の取材の場では、しばしば、ランビエルに触れてきた。

 北京オリンピックで心残りとしてあげたのは『ボレロ』の出来だったが、このように語っている。

「この『ボレロ』が、ステファンが満足する、よかったといっていただけるような演技をできなかったことです」

 振り付けもしてくれたランビエルへの申し訳なさがそこにあった。

 世界選手権で優勝したあとの言葉にもあった。緊張を乗り越えられた要因として、「自分だけのために、は得意ではない」旨を語ったあと、こう続けた。

「いちばんはここ数年、なかなか成績が出ない中でも応援してくださる方だったり、何もできない時にお世話になったステファンコーチだったり、素晴らしい成績を残したい、という思いはありました」

 宇野が寄せる信頼が、そこにあった。

 それは宇野からランビエルへのものだけではない。

優勝した昨年11月のNHK杯のあと、宇野がこのようなエピソードを明かしている。

「世界一のスケーターになるにはどうしたらいいだろう。何が必要だと思う?」

 ランビエルから問いかけられたという。2021年3月の世界選手権を4位で終えたあとだ。

 宇野の導き出した答えはジャンプだった。「スケートというのはすべての要素があって成り立つと自覚しているんですが、最近の傾向や活躍する選手の姿を見ると、そう思いました」

 フリーでの「4回転ジャンプ5本」へのチャレンジを決断する要因でもあったが、ランビエルの問いかけはさらに重要な意味を持っていた。そこには宇野が世界一になれるという前提が含まれているからだ。そのポテンシャルを信じるからこそ、「世界一のスケーターになるには」という質問が生まれている。つまりランビエルもまた、宇野を信頼していたことを意味している。