■「ペトロパブロフスク熊事件」
10代の女性がヒグマに襲われ、自分の身体生きたまま喰われながら、携帯電話で母親に助けを求める……。
そんなショッキングな事件がロシアで発生した。

 「ペトロパブロフスク熊事件」として、ネット上では有名な事件だが、ロシア内での最初の報道などを参照し、改めて事件の経緯をたどってみよう。
ロシア領カムチャッカ半島は北海道から1000キロ以上も東にある。ペトロパブロフスクはその第1の都市だ。
イゴール・ツィガネンコフ(45)、彼の妻のタチアナ、娘のオルガ(19)、祖母の4人家族は、ペトロパブロフスク近郊のコリャーキ村に住んでいた。

 その年の夏、彼らは多くのカムチャッカの住民と同じように、ダーチャ(菜園付きの別荘)で過ごしていた。
その土曜日、イゴールと娘のオルガは、パラトゥンカ川に遊びに行くことにした。
目撃者によると、その地域の草丈は2メートルを超えていた。茂みに何かが潜んでいても見つけることは難しかった。

 車を川のほとりに停め、ふたりは森の小道を歩いていると、突然、ヒグマが茂みから飛び出し、イゴールの頭部を打ち砕いた。イゴールは悲鳴もあげずに即死した。

■「お母さん、痛い!  助けて!」

 娘のオルガは60~70メートルほど逃げたが、そこでヒグマに追いつかれた。ヒグマはオルガの足をつかみ、彼女は悲鳴を上げて助けを求めた。
しかし周りには誰もいない。そこでオルガは携帯電話で母親に電話し、こう伝えた。

 「お母さん、ヒグマが私を食べている!  お母さん、痛い!  助けて!」
ヒグマに襲われたと叫ぶ娘の声を聞いて、母親は最初、冗談を言っていると思った。
しかし、電話から娘の声のほかに、獣のうなり声や、むさぼり食う音まで聞こえてきて、ようやく冗談ではないことに気づき、恐怖と愛する我が子を助けることができない絶望感に襲われた。