スズキへの補助金、住民訴訟に 発言や申請日に疑問点

3/14(日)14:00配信

 浜松市がスズキに交付した企業立地補助金をめぐる住民訴訟が来月始まる。提訴した市民団体の弁護団が過去の経緯を調べたところ、スズキの鈴木修会長が市に厳しい行革を迫る一方、高額の補助金を長期間受け取る構図が浮上してきた。浜松市政とスズキの関係が問われている。

■「途中まで正論だが、最後は利益誘導」  鈴木会長は市が2005年に設置した行財政改革推進審議会(行革審)の会長を4年務め、行革を主導した。元メンバーの一人は「鈴木会長の行革に関する主張は途中まで正論だが、最後は利益誘導のようになる。一経営者の影響力が大きくなりすぎた」と指摘する。
そんな懸念を裏付けるような補助金の経緯だ。  提訴の対象になった補助金は、(1)浜松市北区の浜松工場(2)同市南区の本社施設の二つ。流れは別表の通りで、(1)は20年4月に34・5億円(子会社・スズキ部品製造含む)交付された。(2)は13年12月に6・8億円、15年2月から19年2月まで計5回にわたっては固定資産税など負担分補助金として2・2億円交付された。
当初は(1)が注目されていたが、調査の過程で(2)の全容が明らかになってきた。  疑問点は主に三つ浮上している。第一は、スズキの鈴木修会長が15年5月、新聞インタビューで「補助金は国民を堕落させる。俺はもらったことない」と発言していることだ。鈴木会長は各種補助金の削減を主張してきたが、発言時点で補助金(2)の一部を受給していたことがわかった。虚偽発言になる。

 第二は、16年12月にスズキが申請した工事期間の延長だ。補助金は用地契約から5年以内に申請しなければならず、同月が期限だった。しかし、当時は燃費データ不正の発覚直後。建屋はすでに完成していたが、スズキは土壌汚染調査などを理由に19年6月まで延長を申請し、期限切れの同月に補助金を申請した。
 市の補助金要項では「申請時にコンプライアンス違反がないこと」を条件にしており、これを避けるための延長申請という見方が出ている。
 第三は、補助金(2)の申請日に不正があったことが判明したことだ。(2)は6回支給されているが、すべての申請日が不正の行われていた期間中だった。
市は(1)の申請日である19年6月28日に違反がないとして交付を決定したが、過去の補助金(2)は違反していながら交付したことになる。
■社員「申請したので正直驚いた」  補助金が問題になるのは、16年以降、スズキの不正が次々と明らかになったからだ。スズキ社員は「製造過程にかける人員が少ないので、結果的に法令軽視になる。不正発覚は時間の問題だと思っていた。補助金申請は辞退する選択もあったはずだが、申請したので正直驚いた」と話す。
 訴訟は市長の鈴木康友氏とスズキ側が連帯して補助金を返還するよう求めている。塩沢忠和弁護士は「スズキへの補助金はおかしいというのが市民の声だ。違法性と無効性を訴えていく」と話す。議会で追及してきた北島定市議(共産)は「スズキは今月、税負担分の補助金を申請した。係争中なのに理解でできない」と批判する。  市は3点の疑問について「裁判の中で主張していく」(企業立地推進課)としている。スズキは「訴訟の利害関係者なのでコメントは控える」(広報部)としている。

朝日新聞