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毎日新聞 2021/12/13 12:00(最終更新 12/13 12:00) 有料記事 2982文字




 2022年度の高校1年生が使う教科書の採択結果が公表された。実用的な国語力を育む新科目「現代の国語」では、本来は教材として想定されていなかった小説を5点掲載した「第一学習社」(広島市西区)の教科書が、20万冊近い採択を得てトップとなった。「小説の入る余地はない」という文科省の説明を真に受け、掲載を見送ったライバル社の怒りは収まらない。ただ、編集者の一人は「これは単なる経営上の損得の話ではない」と訴える。問題の本質は何なのか。【大久保昂/東京社会部】

教科書会社が納得できない文科省の対応
 まずは、これまでの経過を簡単に振り返りたい。

 今の高校の国語の必修科目は「国語総合」(4単位)のみ。これが22年度以降に入学する生徒から実施される新学習指導要領では、「現代の国語」(2単位)と「言語文化」(同)の2科目に分けられる。「現代の国語」は評論のような論理的文章のほか、法律や契約書などの実用文を扱い、小説や古典は「言語文化」に集める。文学作品を読む活動に偏りがちとされてきた国語の授業のあり方を変え、実社会で役立つ国語力育成の時間をしっかり確保する狙いがあった。

 「現代の国語」について、文科省は「小説の入る余地はない」と説明してきた。多くの国語教員が今回の科目再編に違和感を抱き、小説の掲載を望んでいることを知っていた教科書会社の編集者たちは頭を悩ませた。最終的に文学作品の掲載を断念した社もあれば、補足教材の扱いにとどめることで、検定をパスしようとした社もあった。

 ところが、21年3月に公表された教科書検定の結果、芥川龍之介の「羅生門」や夏目漱石の「夢十夜」などの定番小説を堂々と載せた「第一学習社」の教科書が合格した。しかも、同社は「従来の『現代文』教科書のイメージでご利用可能」と宣伝した。…

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