https://mainichi.jp/articles/20220101/k00/00m/010/170000c

毎日新聞 2022/1/3 16:00(最終更新 1/3 16:00) 1347文字




https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/01/01/20220101k0000m010169000p/6.jpg
防衛装備庁が「電磁加速システムの研究」事業で試作したレールガン=同庁提供

 火薬を使わず、電磁力によって超高速・長射程の弾を連続発射できる兵器「レールガン(電磁砲)」。SFやアニメの産物だったこの新兵器の研究・開発に、防衛省が本腰を入れる。政府の2022年度当初予算案に65億円を計上した。迎撃が難しい極超音速兵器の開発を進める中国や北朝鮮に対抗して、新たな防空手段として実用化を目指すが、果たして――。

 「レールガンでなら倒せるかも。マッハ7で撃てる」。登場人物のこの言葉の後、海に浮かぶ米国のミサイル駆逐艦に搭載されたレールガンから超高速の弾が撃たれ、ピラミッドを壊す巨大な敵を打ち抜いた。SFアクション映画「トランスフォーマー/リベンジ」の終盤の一幕だ。



 レールガンは、導電性のある素材で造られた2本のレールの間に、同じく導電性のある弾を挟み、大量の電流を流して磁場を発生させる。それが弾の推進力になる仕組みだ。

 過去、あくまでフィクションの世界の兵器だったレールガン。しかし防衛省は16年度補正予算に「電磁加速システムの研究」として10億円を盛り込み、試作品の製造を進めてきた。目標とする性能は、戦車砲の秒速約1700メートルを上回る秒速2000メートル(マッハ6程度)以上。防衛装備庁によると、試作段階では秒速2297メートルを記録した。



 防衛省がレールガン研究に力を入れるのは、周辺国が極超音速兵器を相次いで開発しているためだ。音速の5倍以上の速さで飛行するため迎撃が難しく、日本のミサイル防衛(MD)を突破する可能性もあるとされる。

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/01/01/20220101k0000m010168000p/9.jpg
防衛省のレールガン構想

 米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、21年10月の米メディアのインタビューで、中国が同年夏に極超音速兵器の発射実験を実施したと指摘。朝鮮中央通信は同9月、北朝鮮の国防科学院が開発した極超音速ミサイル「火星8」の発射実験を報じた。ロシアは19年末、極超音速ミサイルシステム「アバンガルド」を実戦配備している。



 防衛装備庁によると、開発で先行してきた米国の研究では、レールガンの弾丸は約100〜180キロの距離を飛行するとされる。戦艦大和の46センチ砲なら最大射程は42キロ程度で、レールガンはミサイル並みの長射程だ。連射も可能で、大量のミサイル攻撃にも対処できる。対地、対艦、対空全てで活用が見込め、軍事的な「ゲームチェンジャー」になるとの見方もある。

米は研究中止、省内でも懸念
 ただ、実際の開発となると課題は多い。装備庁によると、先行していた米国は既に研究を中止した。「効果がミサイルなどと大きく変わらず、コストに見合わない」と判断したとみられる。日本政府関係者は「通常弾頭へ舵を切った米国を頼りにはできない。日本が開発の先端を行くことになる」と強調する。



 また、レールガン発射に必要な電力は、日本の家庭約7000世帯の年間使用量にあたる約25メガワットと膨大で、電源をどう確保するのかは大きな課題だ。発射の際に高熱が発生するため、連射にはレールの摩耗などの損傷も壁となる。

 防衛省は22年度から、エネルギー効率化や高速連射技術の確立へ研究を進め、28年度以降に配備を始めたいとしている。だが省内には「きちんと作動するかは分からない。超高速で動く物体にちゃんと当てられるのか」と懸念の声も出ている。【畠山嵩】