新型コロナウイルスの第6波で、致死率が重症化率を上回る現象が起きている。ワクチン3回目接種が進まず、第5波と比べて免疫が低下した高齢者の感染が増加。体力のない高齢者は人工呼吸器など負担のある治療を受けられず、新型コロナ重症者の定義から外れ、「軽症」扱いで亡くなるケースが後を絶たない。現場の医師は「医学的には重症なのに、統計に表れていない」と訴える。(沢田千秋、原田遼)

◆人工呼吸器は体に負担
 第6波で流行するオミクロン株の重症化率の低さは、国内外の研究で示されてきた。東京大の仲田泰祐准教授(経済学)らの推計では、23日時点で、東京都の第6波の重症化率は0.04%で、第5波の0.66%の16分の1しかない。
 ただ、致死率は0.06%で重症化率より高い。厚生労働省に助言する専門家組織アドバイザリーボードの資料によると、大阪府でも致死率が重症化率を超えた。
 オミクロン株より毒性が強いデルタ株の第5波では、40〜50代を中心に肺炎で重症化。人工呼吸器などを使った高度な治療を経て亡くなる人が多く、致死率は当然、重症化率より低い。ところが、第6波では、重症と診断されないまま死に至る高齢者が多いために、致死率が重症化率を超える逆転現象が起きた。
◆第6波前に3回目接種終わっていれば…
 専門家組織の座長、脇田隆字・国立感染症研究所長は24日の会合後、「重症者に数えられるのは人工呼吸器や集中治療室(ICU)に入る人で、これに当てはまらない人が、肺炎ではなく基礎疾患で亡くなっている」と説明。「高齢者の多くは基礎疾患があり、体の状態を一定に保つ機能が低下しており、感染によってバランスが崩れ持病が悪化する。発熱や炎症により状態が悪くなることもある」という。
 16日までの1週間平均で、東京都の新規感染者に占める60代以上の割合は13%にとどまるが、入院患者の割合は70%に達する。

 「高齢者でもワクチンを打っていれば、症状はひどくならない。第6波前に3回目接種が終わっていれば」。埼玉県三芳町のふじみの救急病院の鹿野晃院長はそう残念がる。新型コロナで入院する18人全員が60代以上。重症の定義である人工呼吸器や人工心肺装置(エクモ)は体への負担が強く、植物状態になるリスクもあり、高齢の場合、本人や家族が希望しないことが多い。
◆「医学的には重症。先進国とは思えない」
 心疾患がある高齢患者が感染すると、胸に水がたまって呼吸が苦しくなり、食事を取れなくなって衰弱。糖尿病の人は血糖値が上がって脱水症状になる。発熱で意識がもうろうとし、誤嚥性肺炎を起こす人も少なくない。鹿野院長は「感染から2、3週間かけて亡くなっている。医学的には重症なのに、新型コロナの分類では軽症。数字のマジックだ」と指摘する。
 医療逼迫の現状を踏まえ、国は高齢者施設内での療養を推奨しており、陽性の職員が陽性の入所者をみる「陽陽介護」が発生。鹿野院長は「施設は救急要請しづらい状況で、弱っていく入所者の心臓が止まり慌てて救急車を呼んでも手遅れ。先進国の医療とは思えない地獄絵図だ」と話す。
 その上で、「世界一高齢化が進む日本でウィズコロナは無理。感染者の増加をほっておけば第7波で同じことが起きる」と警鐘を鳴らす。

東京新聞 2022年2月27日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/162536