[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「空母」。

 海上自衛隊は、「いずも型」護衛艦の「いずも」と「かが」の2隻を事実上の空母に改修する計画を進めている。2024年度以降に配備される予定だ。政府は、自衛隊史上初の「空母」をなぜ保有し、どう活用しようとしているのだろうか。

「いずも型」護衛艦2隻を改修
 四国沖の太平洋上で10月3日、在日米海兵隊に所属する2機のF35B戦闘機が、第1段階の改修が終わった「いずも」に発着艦する試験が行われた。F35Bが甲板にゆっくりと垂直に着艦すると、艦内では日米両隊員らから拍手がわき起こった。

 空母とは、航空母艦の略称だ。横須賀基地(神奈川県)を拠点とするニミッツ級米空母「ロナルド・レーガン」のような姿を思い浮かべる人も多いだろう。ニミッツ級は全長約333メートルで、戦闘機など60機以上を搭載し、カタパルト(射出装置)で勢いよく航空機を発艦させる――。こうした大型空母は「動く航空基地」とも称され、近代海軍の中核的な存在となっている。

 一方、「いずも型」は全長248メートルで、空母としては小型の部類に入る。改修後の戦闘機の搭載機数は、10機程度になると見込まれている。

 護衛艦とは、海自が保有する艦艇のうちの主力となる種類の艦で、諸外国では駆逐艦と呼ばれるものに相当する。

F35B搭載予定
 「いずも」は15年、「かが」は17年にそれぞれ配備された。砲やミサイル発射装置を備えた通常の護衛艦とは異なり、ヘリコプターを多く搭載できるように艦首から艦尾まで平らな全通甲板を備えた姿が特徴的で、外観は空母そのものだ。これまで「ヘリ空母」とも呼ばれてきた。

 搭載するヘリで外国の潜水艦の監視に当たったり、大きな船体に大量の物資を載せて輸送したりするのが任務だ。16年の熊本地震の災害派遣では、北海道から九州へ隊員と車両約40台を輸送した。

 ただ、全長248メートルだと、通常のジェット戦闘機の発着艦は難しい。このため、ジェットエンジンの排気口を下向きに変えることで短距離で離陸し、垂直に着陸できる最新鋭のF35Bを搭載する予定だ。

 改修の第1段階で、高熱の排気が当たる甲板に耐熱塗装を施す。第2段階では、下からの乱気流の影響を抑えるため、艦首部分が細い飛行甲板を長方形に変える工事などを行う。

増す中国の脅威、離島防衛目的
 政府が事実上の空母を保有するのは、太平洋や南西諸島の空の守りを強化するためだ。政府は名指ししていないが、中国の脅威に備える意味がある。

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 中国軍は空母2隻を保有し、近年、艦隊を南西諸島付近から太平洋へと頻繁に展開している。さらに、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の領有権を主張し、武装した海警船による領海侵入を繰り返して圧力を強めている。

 一方、自衛隊の戦闘機が通常使用する長さ2400メートル以上の滑走路は、太平洋上は硫黄島の基地、南西諸島では沖縄本島の那覇基地にしかない。那覇基地は、尖閣諸島や与那国島から400〜500キロ・メートル離れている。