我が家は2500万円、スペックは「V12で380ps」?

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時代を先取りしたフェラーリ住み家族が出てくる「我が夢フェラーリの巻」を収録した、『こちら亀有公園前派出所』52巻(集英社)

 「車中泊」という言葉が浸透してから長く経ちますが、レジャーや趣味での車中泊はせいぜい数日間でしょう。しかし、家で暮らすように毎日寝泊まりするとなると、思い浮かぶのは各地での試合があるアスリートたちではないでしょうか。なかでも、フィギュアスケートの浅田姉妹やゴルフの横峯さくら親子は有名です。ちなみに芸能界では、売れるまで普通乗用車の車内で5年間暮らしたLiLiCoさんというツワモノがいます。

 しかし、今から30年以上前の1988年に、『こちら亀有公園前派出所』で車中泊の様子がすでに描かれていたのです。両津勘吉を驚かせたのは、2ドアのスーパーカーで暮らす家族でした。

 コミックス52巻第10話「我が夢フェラーリの巻」に登場するのは、フェラーリが好きで好きでたまらない中年のサラリーマン。彼は退職金を前借りし、当時およそ2500万円したフェラーリのテスタロッサを購入して、家族で暮らしはじめたのです。

 ある日、一家の息子の出井野(デイノ)が自宅となったテスタロッサに帰宅すると、お母さんが、洗濯物を車体の両端に張ったロープに干しながら「おかえり」と出迎えます。「おなかがすいたよ。何かない?」という出井野に「ダッシュボードにケーキがあるよ」と答えるお母さん。車内には、テレビ、卓上コンロ、魔法瓶、テーブルなどが置かれ、まるで居間のようになっています。ちなみに出井野くんは、フロントのトランクを寝室にしており、朝目覚めると、お母さんに「はやくラジエターのお湯で顔を洗っておいで」と言われていました。

 こんな家族が『こち亀』に登場する背景には、1988年当時のバブルの影響で住宅価格が高騰し、家を買えないサラリーマンが増えたという社会背景がありました。実際、家が無理ならせめて車だけでも……と、アパート住まいでポルシェやフェラーリを乗り回す人も出現していたのです。そういえばここ数年、首都圏のマンション価格は右肩上がりになっているそうですが、どこか通じるものがあるのかもしれません。

イメージ一新!?快適・最適「車中泊」ライフ

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専門誌以外でも「車中泊」を特集する雑誌が増えている。画像は『男の隠れ家』2020年 12月号(三栄)

 かつては、クルマで寝泊まりすることに負のイメージを持っている方が少なからずいたものです。しかし、現代では、さまざまなアイテムが大幅に進化し、車内でも快適な時間を過ごすことができます。特にPHEVやEVなら大容量バッテリーを搭載しているので、電力供給は問題ナシ。ちなみに先述の出井野くんは、「母ちゃん、テレビつけていい?」と聞いたとき「バッテリーが上がるからエンジンかけてからにしな」と言われていましたが、EVならアイドリングすら不用なのです。

 ここで「でも、充電が必要だろ」という声が聞こえてきそうですが、ここ数年、車中泊を後押しするインフラの整備が急ピッチで進んでいます。身近なオートキャンプ場には、充電できる場所がたくさんあります。クルマを満充電状態にして自宅を出発すれば、かなり遠方でも航続距離の圏内に収まるはずです。そして、目的地に着いたら充電開始、翌朝にはフル充電されているというわけです。

 地方に行けば、スーパーマーケットやスーパー銭湯が駐車場の一部を車中泊用に貸し出しているケースもあります。他にも「Carstay」という会社は、車中泊を楽しみたい人と駐車場を提供したい人をつなぐシェアリングサービスの提供で注目を集めていますし、「くるま旅」を推奨している一般社団法人日本RV協会は、各地の温泉を楽しみながら旅館・ホテルの駐車場で車中泊ができる「湯YOUパーク」というシステムを運営中で、提携している旅館・ホテルが全国に100件以上もあるそうです。

 これだけサービスやインフラが整いつつある現代なら、前述のフェラーリに住む家族もより快適な暮らしができたかも知れませんし、このまま車やサービス、インフラが進化していけば、本当に家族が車で快適に暮らせる時代がやって来るかもしれません。すでに欧州のメーカーはハンドルがない車を開発し、プロトタイプもお披露目されています。出井野くん、きっと欲しがるだろうな……。

(遠藤昇輝)

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