5月下旬、旧知の建設業関係者から1本の電話が入った。「発注した生コンクリート会社が日本産業規格(JIS)違反をしていた。出荷先の施工主からは、『買い手に引き渡しができない』と、クレームが入っており、対応に苦慮している」ということだった。その後、「違反の生コン使用70件 違法建築の恐れ」(読売新聞6月5日付)と報じられると、テレビのワイドショーなどでも取り上げられるなど、報道は過熱していった。

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建設現場では余った生コンクリート(残コン)が発生してしまう(写真はイメージ) (AFLO)

 具体的には、川崎市内の生コン会社・小島建材店が余った生コンを新たに製造した生コンに混ぜて出荷していたというものだ。生コンは、時間が経過すると硬化するためJISでは、出荷してから原則90分以内に使用しなければならないと規定されている。小島建材店は、これに違反していたことからJIS認証製造事業者としての認証が取り消された。

 JIS違反の生コンが使われた約70件のうち、最も多い約50件があることが分かった川崎市では、福田紀彦市長が「市民の不安解消に努める」などと表明した。川崎市が小島建材店にヒアリングしたところ、「キャンセルが出て余ってしまったので再度使用してしまった」ということだった。

 建築基準法では、建築物の基礎、主要構造部等(柱・梁等)に使用するコンクリート等はJIS規格に適合するか、国土交通大臣の認定を受けたものであることが必要とされている。川崎市建築指導課によれば「建物の多くは、戸建て住宅。すでに引き渡しが完了したものもある」という。

 一方で、JISに適合しないものの、建築基準法に違反するか否かの結論は出されておらず、いま調査している段階だという。14年ほど前に藤沢市であった事例では、認められていない骨材(コンクリートの材料)が使用されたが、調査の結果、大臣認定されたという例もあった。

いい加減、「残コン」問題に
正面から向き合え
 報道では、「JIS違反」ということに注目が集まったが、この問題には、もう一つの本質が隠されている。「残コン」だ。生コンが建築や土木の施工現場にミキサー車で運搬される際、必ず少し多めに出荷される。生コンが足りなくなると困るからだ。そこで余った生コンは、「残コン」として生コン業者が持ち帰るというのが、業界の長年の慣習なのだ。そもそも一度、販売したものを、買い手が処分するのではなく、売り手が持ち帰るというのはおかしな話であるが、零細業者が多い生コン会社は、力関係でこの商習慣に従わざるを得ないということが続いてきた。

 この問題に20年近くにわたって向き合ってきた長岡生コンクリート(静岡県伊豆の国市)の宮本充也社長は「今回、小島建材店が行ったことは、ルール違反であり、決して認められることではない。ただ、都心部の生コン業者にとっては『残コン』を処理するにもスペースが足りないなど、苦労しているという話をよく耳にする」と指摘する。実際、「残コン」の再利用に取り組む長岡生コンクリートを訪問すると、その敷地は都市部にある小学校などのグラウンドよりもはるかに広い。

 つまり、小島建材店が余った生コンを使用したように、「残コン」が存在する限り、それが転用されてしまう可能性が残るわけだ。「だからこそ、『残コン』には、行政、企業、業界団体、全ての関係者がきちんと向き合うべき」(宮本氏)ということだ。