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 現在進行中のウクライナにおける戦争にて、柴犬が存在感を示しつつある。

 この記事を執筆する間にも、Twitterでは次々に“柴犬化”するアカウントが現れた。ついにはウクライナのオレクシー・レズニコウ国防大臣のTwitterアイコンも柴犬化している。

 一体何が起こっているのか。

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オレクシー・レズニコウ国防大臣のTwitter画面(8/31現在)

 ネットで影響力の強い動物といえばネコだが、この10年ほどで柴犬もネコに迫る「特別な地位にある動物」のポジションを確保しつつある。

 日本だけでなく、海外でも同様の傾向が見られる。日本原産の柴犬は海外ではメジャーな犬種とは言いがたいが、それでもネット上で特別な地位を占めている。単に人気があるというだけではない。ネット上で模倣され伝達されていくことで影響力を得る情報、ミームとして柴犬は大きな存在感を示している。

 インターネット・ミームとして広がった柴犬「Doge」をモチーフにした暗号通貨、Dogecoinは、ミームに敏感なテスラ・モーター創業者のイーロン・マスクが大量に保有、推奨したことで注目を集めた。また、Dogeの発端となった飼い犬の写真をアップロードした日本人女性は、後に写真をNFTオークションに出品し、当時のレートで約4億7000万円で落札されるなど、ネット空間を超えた柴犬の影響力の強さを窺い知ることができる。

ウクライナ国防省が「柴犬兵士」に感謝を表明
 8月28日、ウクライナ国防省のTwitterアカウントが、アメリカが供与した高機動ロケット砲システムHIMARSの射撃写真に柴犬の低クオリティなコラージュ(雑コラ)を合成した画像を投稿し、ウクライナを支援するパートナーに対して謝意を表明した。

 ウクライナ国防省が名前をあげて謝意を表明した組織の中には、NAFOという聞き慣れない組織が存在する。NAFOはもちろんNATO(北大西洋条約機構)のパロディで、北大西洋Fella機構の略だ。Fellaとは男性を意味するくだけた表現だが、兵士に扮した柴犬たちがFellasと呼ばれたことから、柴犬の兵士たちによるグループと解することができるだろう。

偽情報にクソコラで対抗するNAFO
 そもそもNAFOとは何なのか? NAFOとはTwitter上の親ウクライナユーザーによる勝手連的な存在であり、ロシアのプロパガンダやトロール(嫌がらせ)に対抗するため、ロシアの侵攻開始後の5月頃に成立したと考えられている。

 NAFOはこれまたインターネット・ミームとなった聖ジャベリン関連グッズの通販サイトでFellaグッズを販売しており、ウクライナでジョージア人を中核として活動する外国人部隊「ジョージア軍団」の資金調達も行っている。

 では、具体的にロシアによる情報工作に対して、NAFOはどのように対抗しているのだろうか。柴犬コラを含め、ネット上のくだらない、クオリティの低い投稿はshitpost(クソ投稿)に分類される。貴方が日々、SNSで見かけるどうしようもない投稿、Twitterで言うとクソツイートだ。無価値にしか見えないクソな投稿。だが、無価値なことに意味がある。

 政府などの組織によるネット工作には意図がある。ロシアの軍事思想に詳しい小泉悠東京大学先端科学技術研究センター専任講師によれば、ロシアの情報戦とは「人々の意識を180度変えるというより、何が起こっているのか分からなくしたり、怒りを掻き立てる方向性で機能している」という(BS日テレ「深層NEWS」8月24日放映)。

 例えば、ロシアが背景にいる工作アカウントがネットで「ウクライナはネオナチ政権である」、「ウクライナ政府は虐殺を行っている」といった、混乱や怒りを目的にした情報を流しているとしよう。そこにNAFOが馬鹿らしい柴犬のクソ投稿を投げつけて台無しにする。そこでもう、すべてがどうでもよくなる。それまでの流れをぶった切る、いわばちゃぶ台返しだ。