2014年の休刊後も根強い人気を誇る料理漫画といえば『美味しんぼ』である。美味しんぼには、道場六三郎や陳健一の父親として知られる陳建民といった実在の料理人から、記憶に残る架空の料理人まで数多く登場してきた。

 今回はそのなかから、読者に強いインパクトを与えた料理人の忘れがたき料理を検証していきたい。

とんかつ大王・中橋の「とんかつ」
 美味しんぼ史上最も心温まる話として知られる「トンカツ慕情」。アメリカで大成功し富豪となった里井が、学生時代男に給料を奪われたところを救われ、トンカツを食べさせてくれた恩人・中橋と再開する話である。

 そのなかで中橋が作ったのがトンカツ大王のトンカツ定食。中橋は信頼していた人物に騙され、店を失っていた。山岡士郎の手配で種子島の最高の黒豚、その脂身などを用意し、里井が用意した店で、「トンカツ大王のトンカツ定食」を作った。このトンカツには味にうるさい山岡と栗田も絶賛していた。

 この「トンカツ大王のトンカツ」は複数のユーザーが再現に挑戦。その評価は総じて高いものがある。

鰻の老舗「筏屋」の板前・金三の「鰻丼」
 都会のど真ん中で包丁を振り回すなどして、大暴れをした鰻の老舗「筏屋」の板前・金三。怒りの理由は「筏屋」の二代目が炭火を止めガスを使って鰻を作るという方針を導入したことだった。

 中松警部の謎の政治力によって無罪放免になった金三。山岡のコネクションで二代目が板山社長のニューギンザデパートに出店する筏屋のそばに、炭火を使った鰻屋を出すことになる。あくまでも昔のやり方を貫いた金三の店は山岡のサポートもあり、大盛況。一方筏屋は、ガスを使う、定食スタイルにするなどしたことから、客が激減する。

 結局二代目も自分のやり方が間違いであることを認め、金三は筏屋に戻った。あくまでも伝統の味を守り、炭火にこだわった金三の仕事ぶりは、町での大暴れと合わせ、『美味しんぼ』でも屈指の「職人」と評価する声がある。

雉川盛一の「大流行のラーメン」
すべてを使って連載された「ラーメン戦争」。山岡のライバルとして登場したのが、「流星一番亭」を運営する流星組の雉川盛一。アメリカのハンバーガーチェーンを全米第2位に押し上げるものの、解雇された経歴を持つ男で、ラーメンに情熱を注ぐ。流行らないラーメン屋を傘下に入れるやり方で勢力を拡大していた。

 雉川のラーメンに対する情熱は凄まじく、ナムプラーを加えて独自のスープを考案したうえ、麺についても日付を細かく管理し、部下が出す麺を間違えた際には1口で違いを感知する鋭敏さを持つ。また自ら調理を担当することもあったほか、アメリカ人に受けるラーメンも研究していた。