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文鮮明夫妻

 安倍晋三元首相が殺害されたことで、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)による被害は2世信者にも及んでいることが続々と報じられている。もっとも、皮肉なことに「2世問題」は、統一教会自身も抱えている問題だという。ジャーナリストの藤倉善郎氏がレポートする。

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 教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン=1920~2012)が「理想家庭と世界平和を実現して幸福になるための道」(公式サイトより)として説いた「統一原理」を教義とする統一教会。しかし、教団は文鮮明の存命中から、霊感商法や高額献金、子供に信仰を強要する2世問題で、多くの家庭を破壊してきた。しかも「理想家庭」から程遠いのは、信者たちの家庭ばかりではない。そもそもその教祖一族からして、教団内での実権をめぐって骨肉の争いを繰り広げてきたのだ。

 現在、統一教会を率いるのは、文鮮明の妻・韓鶴子(ハン・ハクチャ=79)。これに対して、主に2つの分派が存在する。1つは、教団を離れた3男・顕進(ヒョンジン=53)が率いる「家庭平和協会」。もう1つは、同じく教団を離れた4男・國進(クッチン=52)が支援し、7男・亨進(ヒョンジン=43)が指導者を務める「サンクチュアリ教会」だ。ジャーナリストの鈴木エイト氏が言う。

「分派の原因は後継者争いです。もともと文鮮明は、顕進氏を後継者としていました。しかし、亨進氏は自身が後継者であると主張し、文鮮明が亨進氏を後継として認める書面にサインする映像を撮影した。3男と7男の対立が表面化し、結局、顕進氏は後継者争いから脱落。ところが文鮮明の死後は、妻の韓氏が統一教会の総裁となって実権を掌握します。関連企業群を統括する経済部門『統一教財団』のトップだった國進氏や宗教部門のトップで後継者だったはずの亨進氏を要職から外しました」

 顕進は米国内に複数の企業を擁する統一教会の資金管理団体「国際統一教会(UCI)」などを掌握し、2017年に「世界家庭教会」を設立して分派となった。亨進は2015年に「サンクチュアリ教会」を設立して分派。米国の銃器製造会社「カーアームズ」の創業者である國進がこれを支援している。

絡み合う親族間訴訟
「巨大コングロマリットである教団の資産や事業をめぐって、アメリカで訴訟も起こっています。顕進氏側がUCIの人事を変更したり、700億円以上の資産を移動させたことについて、現在では敵対している韓氏と亨進氏が提訴しています。一審では韓・亨進氏側が勝訴しましたが、今年8月の控訴審では一審判決が取り消され、差し戻し判決が下りました。今後もこの裁判は続きます」(鈴木氏)

 顕進(家庭平和協会)に対する訴訟では共闘しているかに見える韓鶴子(統一教会本家)と亨進(サンクチュアリ教会)だが、両者間の訴訟もある。

 統一教会における理想郷を意味する「天一国」という言葉を、2015年に統一教会側がアメリカで商標登録しようとしたため、サンクチュアリ教会側が商標審判部に申し立てを行った。今年6月、統一教会側が登録申請を取り下げると表明し、ようやく決着した。