杉田水脈総務政務官が過去のブログでアイヌ民族などを侮辱していたことが、新たに国会で取り上げられた。杉田氏は性的少数者や性暴力被害者に対する表現でも批判を浴びており、マイノリティーや弱者への感覚にいっそう疑問が強まる。アイヌなどから憤りの声が上がるものの、岸田文雄首相は更迭しない意向のようだ。このままでいいのか。(中山岳)

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参院予算委で答弁する杉田水脈総務政務官=11月10日、国会で(朝倉豊撮影)

◆「当時、私は一般人だった」と釈明
 「あまりにひどい内容なのでパネルにできず、紙の資料でお配りしています」。11月30日の参院予算委員会。立憲民主党の塩村文夏氏はこう切り出し、杉田氏のブログを紹介した。

 ブログは、2016年2月にスイスのジュネーブで開かれ、自身が足を運んだ国連女性差別撤廃委員会が題材だった。「目の前に敵がいる! 大量の左翼軍団です」と記載。参加したアイヌや在日コリアンを「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」とやゆした。

 さらに、参加団体の記者会見を聞こうとしたところ、囲まれて拒否されたとし「彼らは、存在だけで日本国の恥晒(さら)しです」などとつづった。

 答弁で杉田氏は自ら書いたと認め、「100人ぐらいの方々が取り囲んで、至近距離で罵声を浴びせられた。当時、一般人だった私がこのような感想を持つのは仕方がなかった」と釈明。塩村氏は「人権感覚があるのか疑わしい」と語気を強めた。

◆勝手に入って無断撮影したら「罵声を受けた」?
 当時の参加者たちからも、批判の声が上がる。

 ブログで名前を取り上げられた、当時参院議員だった糸数慶子氏は「会場には女性の権利向上を目指してNGOや当事者団体が集まっていた。そうした人々を十把ひとからげに『左翼』と攻撃し、おとしめた。とんでもない曲解で今も悔しい」と怒りをにじませる。

 「罵声を受けた」との杉田氏の主張には、「一般公開されていない会議や記者会見に杉田氏らが勝手に入り、無断で参加者を撮影していたので注意されていた」と述べる。

 「ブログの表現は差別やヘイトスピーチでなくて何なのか」と憤るのは、所属する札幌アイヌ協会の会員たちと民族衣装を着て参加した多原良子氏だ。「今もブログが読めることも問題。こうしたアイヌを差別する記事をネタにして、ネトウヨはヘイトスピーチを繰り返してきたからだ」

 北海道大アイヌ・先住民研究センター長の加藤博文教授(先住民考古学)は「アイヌが民族衣装を着ることは、文化的なアイデンティティーの表現だ。コスプレという杉田氏の表現は不適切で、事実誤認がある」と指摘する。

 19年施行のアイヌ施策推進法(アイヌ新法)では「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される」ことがうたわれている。こうした点も踏まえ、加藤氏は、杉田氏がブログの記事を撤回しないことにも疑問を呈する。「今後も放置したままなら、アイヌなど少数民族への差別を故意に発信していると捉えられても仕方ないのではないか」

◆続投させてもプラスにならないが…
 参院予算委で塩村氏は政務官を更迭するべきだと岸田首相に迫ったが、首相は「内閣の一員になる前の言動には、政治家自身が政治の信頼のために説明責任を果たし、適切に対応してもらわなければならない」と述べるにとどまった。

 杉田氏を巡り、たびたび国会が紛糾しても岸田首相が続投させるのはなぜか。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は「寺田稔総務相の更迭など3閣僚が交代し、政権の体力は奪われている。杉田氏の続投はプラスではないものの、何としても4人目は避けたいのだろう」と指摘。「杉田氏の答弁は質問の趣旨をねじまげたような内容も目につく。野党による追及は続くだろう。岸田首相は遠くない時期に内閣改造で交代させることも考えているのではないか」

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