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「ヘイトクライムと私たちの社会」をテーマに講演する中村さん=川崎区で

 在日朝鮮人を取り巻く問題を取材するジャーナリスト中村一成さんが、川崎市川崎区桜本の市ふれあい館で「ヘイトクライムと私たちの社会」と題して講演した。昨年、京都府宇治市のウトロ地区で起きた放火事件を、ここで生きると決めた人たちへの「メモリサイド(記憶の虐殺)」とし、共生を求める人たちとつながっていきたいと訴えた。(安藤恭子)

 講演会は同館の「人権尊重学級」の一環で十日に開かれた。昨年八月、ウトロ地区の七棟を全半焼した放火事件は当初失火とされたが、別の放火容疑で逮捕された男の自供で発覚。男は非現住建造物等放火などの罪に問われ、懲役四年の実刑判決が今年九月に確定した。

 ウトロには第二次大戦中、飛行場建設に従事するため、植民地支配下の朝鮮人労働者が集められ、住むようになった。中村さんは「ウトロは在日のふるさと」などとうたう看板が焼けたことに触れて「価値を認めない者には何の価値もない物だが、ウトロが抵抗の拠点であることを判決は前のめりに受け止めてくれた」と評価した。

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京都府宇治市の「ウトロ地区」放火事件で燃えた住宅=4月

 朝鮮人労働者らが一九五二年のサンフランシスコ講和条約の発効に伴い、日本国籍を失ったことを「外国人化=無権利化」と説いた。劣悪な住環境から水道管敷設を求めた運動や、さげすみを乗り越え、平和と共生の拠点へと進展したウトロの歩みを、在日一世の言葉を交えて伝えた。

 そんな地域を狙った放火事件について、中村さんは「根底にレイシズムがある。特定の集団に属性を付与し、どんな目に遭わせても良いと価値づけをする。加害の正当化と類似する」と指摘。公判などで「朝鮮人が大嫌い」「今後も事件が起こる」と述べた男に対しては「ゆがみにぞくっとする」と話した。

 ウトロには平和祈念館が今春開館し、来館者で盛況という。「看板は焼けたが、歴史を教えてほしいという人が増えている。抵抗し、差別と闘うのは文化。闘いの中で紡いできた言葉のミュージアムに来てください」と呼びかけた。

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