3/11(土) 8:03   現代ビジネス
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表面化した「権力闘争」
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 放送法の解釈変更を巡る総務省の行政文書騒動は、黒を白と言い繕う安倍晋三一強政権の歪みを象徴している。


 文書の作成は'14年から'15年にかけてのこと。奇しくも、あの森友・加計学園問題が進行していた時期と重なる。

 森友・加計問題では、官房長官だった菅義偉が文科省の行政文書を「怪文書のようなもの」と嘯き、今回は総務大臣の高市早苗が膝元の総務省文書を「捏造」と言い放つ。どちらも墓穴を掘っているとしか思えない。反面、彼らの慌てぶりはある意味、想像がつく。

 一強と謳われた安倍政権は実のところ一枚岩ではなく、内情は常に熾烈な権力闘争が繰り広げられていた。今度の総務省文書をよく見るとそれが読みとれる。

 総務省文書で、解釈変更に前のめりになってきたと指摘されているのは、首相の安倍本人と首相補佐官の磯崎陽輔、所管大臣の高市である。だが、そのほかに重要なキーパーソンがいる。官房長官の菅、政務担当の首相秘書官・今井尚哉、総務省から派遣されていた事務担当の首相秘書官・山田真貴子の3人だ。

 '15年3月5日、首相官邸で補佐官の磯崎と秘書官の山田が、安倍に放送法の解釈変更について説明した。そこには政務秘書官の今井も同席している。官邸の首相執務室で「番組をただす」と意気込む安倍や磯崎に対し、秘書官の山田は「官邸と報道機関との関係に影響がおよぶ」と諭したという。

 総務省から派遣されている山田は8日後の13日、実務にあたる同省情報流通行政局長の安藤友裕に報告、と同時に安倍と高市の電話会談があったことが文書に記録されている。そこから5月12日の参院総務委員会で高市が「一つの番組のみでも極端な場合は政治的公平性を確保しているとは認められない」と法解釈変更の答弁をする。

大声で叱咤する「総理の分身」
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 一方、総務官僚の山田と安藤は当初、総務官僚として放送の自由を尊重しようと抵抗を試みたのだろう。そこで官邸ナンバー2の官房長官で、総務大臣経験者の菅を頼ろうとした。だが、磯崎から「この件は総理と私の2人で決める」と一括される。それも文書に残っている通りだ。そこから法解釈変更の流れが一気に加速する。

 キーパーソンの一人、「総理の分身」と異名をとった首相の政務秘書官・今井は、安倍政権であらゆる政策に口を挟んできた。政務秘書官は各官庁から派遣される事務担当秘書官を束ねる官邸の首席秘書官に位置づけられ、山田の上司にあたる。

 今井にとって部下の山田は菅が見出し、内閣人事局人事により'13年11月、女性初の首相秘書官に登用された総務官僚だった。本来、官邸の広報担当秘書官は経産省出身の者が担うのが恒例で、政権発足当時は柳瀬唯夫が担ってきたが、柳瀬に代え菅人事により山田がそこに就いたのである。ちなみに、柳瀬は加計学園の獣医学部新設問題で「総理の意向」文書に記録された首相秘書官だ。

 女性の広報担当秘書官登用は安倍政権にとって鳴り物入りの官邸人事だっただけに、初めは今井も山田を大事にしてきたのかもしれない。そのため放送法解釈の変更について、当初の3月まではむしろ慎重だったように文書に書かれている。

 だが、いったん法解釈変更の流れが出来上がると、今井の山田に対する態度が豹変する。ある官邸関係者はこう話した。

 「たとえば、そのあとの『女性が輝く社会推進法案』に関する中間とりまとめのときも、今井さんは山田さんにつらく当たるようになった。彼女は『各省庁のヒアリングができていない。何やっているんだ』と怒鳴られていました。実際、山田さんが担当した首相のフェイスブック更新が一晩滞ってしまうこともありました。

 で、今井さんは、『ふざけるな』とエキセントリックに大声でがなり立てる。それで叱られたほうは縮こまってしまうのです。とにかく今井さんは立て板に水のようにまくし立てるので、山田さんは何も言い返せない。今井さんから怒鳴られ、よく泣きじゃくっていました。しまいに仕事をとりあげられ、山田さんは放心状態になってボーとしていました」

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