食の知識はグローバル社会の必須教養であり、他国の食文化への敬意がビジネスエリートの武器となります。約4万人の人生を変えてきた人気テーブルマナー研究家・小倉朋子氏の著書『世界のビジネスエリートが身につけている教養としてのテーブルマナー』より、「世界のエリート層の食べ方とふるまいからにじみ出る教養」について解説していきます。

和食の料理名には、「漢字の心」がこもっている
刺身の盛り合わせを「お造り」と呼ぶ理由
和食のメニュー名には比喩的なものが多くあります。

たとえば、旬の食材を個別に煮たものを盛り合わせた「炊き合わせ」は、「食べる人に多くの喜びがありますように」という願いを込めて「多喜合わせ」と書くことがあります。字面を見るだけでもうれしくなりますね。

「香の物」は、漬物のこと。「漬物=漬けたもの」という料理法ではなく、冷蔵庫がない時代、旬の新鮮な野菜を出してもてなす「季節の香り」に焦点を当てた料理名です(諸説あります)。

やはり、こんなところにも日本人独特の漢字の心を感じます。

「お造り」は、刺身の盛り合わせのこと。武士にとって「刺」は、あまりにも直接的に刀や血を想起させる生々しい漢字なので、「お造り」と称されるようになりました。

それにしても、生の魚を切って並べただけなのに、どうして「造」という漢字が当てられているのだろうと、不思議に思ったことはありませんか?

たしかにお造りは、加熱も調味もされていません。そのため、素人目には「生の魚を切って並べただけ」に見えるかもしれません。でも実は、このお造りこそ、もっとも高度な技術が求められます。

今度、お造りを食べる機会があったら、よく見てみてください。

比較的きちんとしたお店ならば、一切れ一切れの角がシャキッと立っていて、断面は輝くようになめらかで美しいでしょう。さらに、ツマ(大根の千切りや大葉などの付け合わせ)との配置は、1つのアート作品のようであるはずです。

しっかりと手入れされた包丁、高度な手際で魚を扱い、そのうえ優れた美意識もなくては、こうはいきません。決して「生の魚を切って並べているだけ」ではなく、たしかな技術とセンスを使って、文字どおり「造っている」のです。

つづき
https://gentosha-go.com/articles/-/50533