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(撮影:横山 純)

36歳での初当選以来、7期20年にわたって国会議員を務め、国交副大臣・首相補佐官・国対委員長を歴任してきた辻元清美さん。2021年の衆議院議員選挙で落選し、政治家を引退することも考えたと話します。しかし、上野千鶴子さんから「落選から学ぶこともある」と助言を受け、自分を見つめなおし、もう一度自然体の自分に戻ろうと決意します。初心にかえり、全国行脚から見えたものとは――(構成:古川美穂 撮影:横山 純)

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◆自然体の自分に戻って
2021年10月、私は衆議院議員選挙で落選しました。36歳での初当選以来、7期20年あまり国会議員を務めてきただけにショックは大きく、政治家を引退して新たな道を探すべきかと悩みました。そんなとき、先輩として慕う上野千鶴子さんから電話をいただいたんです。「なぜ落選したのか考えることで学ぶこともあると思う。本を書いてみたら?」と。

大阪では、維新旋風により自民党すら小選挙区は全滅という状況でした。私が立候補していた大阪10区は徹底的にマークされ、激しい攻勢にさらされた。落選したのはそのせいだと考えていたんです。

でもしばらくすると、私自身にこそ原因があったことに気づきました。長く国会にいるうちに、私は《永田町人間》になってしまっていたのではないか。党を大きくするとか、政権を倒すとか、政治闘争にとらわれて、「国民の小さな声を聞き、問題を解決していく」という本来の政治のありようから離れていたのではないか、と。

また、多くの男性議員は、自分の不在時には、地元とのパイプ役になってくれる妻の「内助の功」に支えられている。女性議員が議席を維持し続けるのが難しい理由のひとつに、そうしたサポートがないことがあります。

だからといって、「女だからダメだ」と言われないよう、私は国会では一瞬も気を抜かず、地元に帰っても徹底的に《どぶ板》をやり、幾重にも鎧を着た《政治サイボーグ》になっていたんですね。そんな自分を見つめなおし、鎧を一枚ずつ脱いでもう一度自然体の自分に戻れたら、という想いでこの本をまとめました。

◆老いの不安に直面して
一時はすごく落ち込んでいたんです。でも落選した瞬間から、3000円、5000円と、全国からたくさんの寄付が寄せられて。お手紙や電話、メールはもちろん、道を歩いていても「もう一度頑張ってほしい」と多くの方から声をかけていただきました。

なかでも忘れられないのが、30代の女性からいただいたお手紙です。児童養護施設で育ち、仕事もうまくいかず、DVに遭い、困難な人生を歩んでいらした方が「こんな自分の小さな声を聞いてくれる議員は辻元さんしかいない」と。感動して、しばらくそのお手紙を肌身離さず持ち歩きました。

一方で、落選すればすぐに議員会館から引き揚げなければなりません。無職となったシングルの私は大阪の実家に帰り、80代の両親と3人で暮らすことに。

そのとき両親の老いを目の当たりにし、この先自分はどうやって生きていくんだろうと、心細さを感じたんです。国会議員は国民年金しかありません。多少の蓄えも選挙で使ってしまった。無我夢中で走り続けてきたけれど、気がついたら還暦を過ぎ、老いの不安に直面している自分がいました。

そこでハタと気づいたのは、「そういう社会問題を解決するために政治があるんじゃないか!」ということです。

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『声をつなぐ 崖っぷちで見つけた「希望のデモクラシー」』中央公論新社 1760円