0001きつねうどん ★
2024/02/15(木) 10:55:24.30ID:9LnPZ7im近年の研究では、ハゲているほど男性ホルモンが強く、成功者が多いとも言われています。
……が、髪の毛が豊かであるのに越したことはないでしょう。
さて、いつの時代も笑いものにされがちなハゲですが、笑われたくらいでしょげているようでは能がありません。
という訳で、今回はハゲを笑われても毅然と対応した清原元輔(きよはらの もとすけ)のエピソードを紹介。『枕草子』で有名な、清少納言(せい しょうなごん)の父親ですね。
落馬したら、冠が……
今は昔、歌よみの元輔、内蔵助になりて、賀茂祭の使しけるに、一条大路渡りける程に、殿上人の車多く並べ立てて、物見ける前渡る程に、おいらかにては渡らで、人見給ふにと思ひて、馬をいたくあふりければ、馬狂ひて落ちぬ。年老いたる者の、頭をさかさまにて落ちぬ。君達あないみじと見る程に、いととく起きぬれば、冠脱げにけり。髻露なし。ただほとぎを被きたるやうにてなんありける……
※『今昔物語集』巻28第6話 歌読元輔賀茂祭渡一条大路語
今は昔し、清原元輔が内蔵助(くらのすけ)を務めていたころのこと。内蔵助とは朝廷の蔵を管理する役人で、スケとはその次官です。
さて、そんな元輔がある年の賀茂祭りで奉幣使(ほうへいし。天皇陛下より御幣を預かり、神社へ奉納する重役)を務めた折りでした。
その日は道が悪かったのか、乗っていた馬が転び、元輔は落馬してしまいます。
「あ痛てて……」
元輔が立ち上がると頭から冠が滑り落ち、ハゲ頭がむき出しになってしまいました。
当時、被り物が脱げて頭髪を露わにしてきまうのは、下着が脱げるくらいに恥ずかしいこととされます。
頭髪を晒すのは無礼者!平安時代、冠や烏帽子を脱ぐのは下着姿になるよりも恥ずかしいことだった
「「「わっはっはっは……」」」
太陽の光に照らされた頭頂部はテラテラと輝き、見る者をして笑わせずにはおきません。
「旦那様、はやく冠を……」
主人が笑いものにされて忍びない下人は素早く冠を渡しますが、元輔は冠に目もくれません。
「旦那様?」
見ると元輔は笑った者たちに向かって演説を始めました。一体どういうつもりなのでしょうか。
「物事は全体を見て判断せよ」元輔かく語りき
「そなたら、何も考えずにハゲを笑っておるが、それは思慮ある振る舞いとは言えないぞ……」
元輔がハゲ頭にも構うことなく熱弁を奮います。変な言い訳は恥の上塗りにもなりそうですが……。
「よいか。思慮深い人間であってもつまづいて転ぶことは少なくない。まして馬なら尚更であろう」
「と言って、馬を笑うべきであろうか。馬も悪気があって転んだ訳ではないのに、それはあまりに気の毒というものだ」
「また、よく見れば道も整備が悪くデコボコではないか。管理不行き届きについて、役人をわらうべきであろうか。いや、それもお門違いというものだ」
「そしてわしの頭から冠が滑り落ちたことについてだが、冠はあご紐ではなく髪で固定するものであるから、髪が少なくて落ちてしまうのは仕方なかろう」
「髪が少ないのは自然のなりゆきであり、わしの行いが悪かったからではない。よってわしのハゲ頭を笑うのは、見当はずれと言わざるを得まい」
「そもそも落馬によって冠が脱げ落ちてしまった事例は過去にもあり、やんごとなき方々も……」