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毎日新聞 2021/10/23 04:00(最終更新 10/23 04:00) 1613文字




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台湾の呉〓燮外交部長(右)と会談するチェコのビストルチル上院議長=2020年8月30日(台湾外交部提供)

 台湾の呉〓燮外交部長(外相)が26日から、東欧のチェコとスロバキアを訪問する。呉氏は蔡英文総統の最側近であり、台湾の外交部長が外交関係のない国を公然と訪問するのは異例といえる。欧州連合(EU)に加盟する中東欧諸国は台湾への接近を進めており、中国も反発しているが後手に回っている形だ。

 台湾外交部の欧江安報道官は21日、オンライン形式の記者会見で呉氏の訪問予定を発表。呉氏はスロバキアで国際フォーラムに出席し、新型コロナウイルスの感染拡大後の経済協力をテーマに演説する。チェコでは、シンポジウムに参加するほか、2020年8〜9月に台湾を訪問したビストルチル上院議長らと会談する予定だ。



 欧氏は「チェコやスロバキアなど東欧の民主主義国との関係を強化し、新型コロナ後の経済回復に向けたビジョンを示したい」として、さまざまな分野での交流や協力を深めていくことの意義を強調した。

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チェコのビストルチル上院議長(左)に贈り物を手渡す蔡英文総統=台北の台湾総統府で2020年9月3日(台湾総統府提供)

 中東欧諸国で台湾との関係強化の先陣を切ったのはチェコだ。中国の反対を押し切って台湾を訪れたチェコのビストルチル氏は、蔡氏と会談した。立法院(国会)で演説した際には、台湾とチェコが共に独裁体制から民主化に成功したという共通点を指摘。冷戦時代の1963年にケネディ米大統領が当時の西ベルリンで「私はベルリン市民だ」と演説したのをまねて「私は台湾人だ」と唱え、喝采を浴びた。



 また今年5月に台湾で新型コロナ感染が拡大して以降、チェコやスロバキアなど中東欧4カ国は計約85万回分のワクチンも提供してきた。

 中国との関係を強化してきたリトアニアでも変化が起きている。5月には議会が新疆ウイグル自治区での人権侵害をウイグル族の根絶を図る「ジェノサイド」であると決議。7月には、欧州で初めて首都に「台湾」の名称を使った代表処(大使館に相当)の設立を認めるなど、明確に中国と距離を取り始めている。



 中東欧諸国の「中国離れ」が進むのは、中国の強権的な政治姿勢への反発も一因だが、中国が打ち出した巨大経済圏構想「一帯一路」に基づく大規模投資が期待通りに進んでいない点も大きい。

 日本国際問題研究所の集計では、ポーランドやチェコ、スロバキアなど中東欧7カ国への中国の直接投資額(10年から18年までの累計)は欧州向け投資の1・5%程度にとどまり、期待外れの感は否めない。



 この7カ国に入っていないリトアニアなどへの投資規模はさらに小さい。今年2月、中国と中東欧17カ国による経済協力の枠組み「17+1」がオンラインで開かれ、中国側からは習近平国家主席が出席した。しかしリトアニアなど複数国からは首脳ではなく閣僚級が参加。その後、リトアニアは枠組み自体からも離脱すると宣言した。

 台湾との関係強化に傾くのは中東欧諸国にとどまらず、EU欧州議会も今月21日、台湾との関係強化をEU欧州委員会などに求める文書を賛成多数で採択。EUが9月に発表した「インド太平洋戦略」でも貿易・投資面で台湾と協力を進める方針を明示し、対中圧力を強める姿勢に転じている。

 中国外務省の汪文斌副報道局長は21日の会見で、呉氏の訪問について「強烈な不満と、断固とした反対を表明する」と明言。訪問受け入れ国に対し「2国間関係や政治的基盤を損なわないよう強く求める」として、取りやめを要求した。また台湾当局に対し「外国を政治的に利用しようとする企ては最終的には行き詰まるだろう」と警告した。

 大陸と台湾は一つの国に属するとする「一つの中国」原則を主張する中国は台湾を譲ることのできない「核心的利益」と位置付ける。中国と国交を結ぶ国が台湾と関係を強化する動きに強く反発する。

 20年夏にビストルチル氏一行が台湾を訪問した際も、王毅国務委員兼外相が「重い代償を支払わせる」と発言し物議を醸した。しかし、その後も中東欧諸国やEUから中国を警戒する動きが相次いでいる。【台北・岡村崇、ベルリン念佛明奈、北京・岡崎英遠】