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毎日新聞 2021/10/23 10:00(最終更新 10/23 10:00) 894文字




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衆院選候補者の運動員が身につけている「七つ道具」の腕章=福岡県内で2021年10月19日午前10時28分、比嘉洋撮影(画像の一部を加工しています)

 選挙の時期になるとよく耳にする「七つ道具」。衆院選の公示日にも、都道府県選挙管理委員会から各候補者に無料で交付された。選挙というと候補者のたすきや白手袋などがまず思い浮かぶ。だがこれらは七つ道具ではなく、各陣営が自前で用意するものだ。

 では七つ道具とは。実は全国統一の規定があるわけではなく、公職選挙法などに基づき選管ごとに決めている。一般には@選挙事務所の標札A街頭演説用の標旗B運動員の腕章C選挙カーや船につける表示板D拡声器につける表示板E乗車・乗船する運動員用の腕章F個人演説会用立て札の表示板――の組み合わせが多く、街に繰り出して選挙運動する際に必ず掲げなければならない。船用の道具があるのは離島や川沿いの集落などでの選挙運動用だ。



 交付する七つ道具の数はそれぞれ決まっていて、福岡県選管の場合、例えば候補者の選挙事務所の標札は1陣営に一つ、腕章は計15枚だ。選挙事務所や選挙カー、運動員などの数が公平になるようにするのが目的で、標札や標旗、表示板は許可証のようなものだ。「選挙は七つ道具が届いてからが本番。あるとないとでは熱の入りようが変わる」。19日の公示日、福岡県内で第一声を上げた候補者の陣営関係者はこう強調した。周囲に散らばる運動員の腕にも受け取ったばかりの腕章があった。

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「選挙の七つ道具」とは

 一方で、公示前から街頭でのぼり旗を掲げ、拡声器を使う候補者を目撃した人もいるはずだ。厳密には公選法で禁止される「事前運動」に当たる恐れもあり、陣営が「政治活動」の名目で事実上の選挙運動を展開しているのが実態だ。こうなると、お金や権力のある候補者がいつでもどこでも選挙運動するのを防ぐことで、選挙の公正さを保とうとする七つ道具の存在意義は薄れる。2013年7月の参院選からインターネットを使った選挙運動が解禁され、街頭の運動を厳しく制限する意味も揺らいだ。



 総務省元官僚で公選法に詳しい片木淳(じゅん)弁護士は「公正さは選挙資金の総量規制で保つ方法もある。選挙運動をこと細かく制限する特異な日本の選挙制度は、有権者が候補者や政党の主張を十分知る機会を失わせる弊害も大きい」と指摘する。【比嘉洋】