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毎日新聞 2021/10/23 15:00(最終更新 10/23 15:47) 有料記事 4973文字




 JR大阪環状線・鶴橋駅の近くにある喫茶店で、壁を背にした席に座り、ようやく切り出した。「ここなら大丈夫でしょう」。大阪市内で暮らす在日韓国人2世の李哲(イチョル)さん(73)。韓国の軍事独裁政権下の1970〜80年代、母国に留学していた在日韓国人の若者らが、情報機関の拷問の末に「北朝鮮のスパイ」にでっち上げられ、無実の罪で投獄される人権侵害が相次いだ。李さんもその一人。死刑宣告を受け、13年もの獄中生活を強いられた。背中や腰などを執拗(しつよう)に殴打された傷痕こそ消えたが、仮釈放から33年を経た今も暴力への恐怖や警戒感が拭い去られてはいない。

 当時、日本では在日韓国・朝鮮人(在日コリアン)に対する厳しい差別があり、多くの若者らが希望を求めて母国へ留学する道を選んだ。だが、独裁色を強める朴正熙(パクチョンヒ)大統領(当時)は、民主化や朝鮮半島統一を求める市民への弾圧を強めた。その一環として「北の脅威」を利用し、韓国に戻った若者たちをスケープゴート(生けにえ)に仕立てた。

 2019年6月27日は忘れ得ない日となった。その日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)への参加で大阪入りした韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が、大阪のホテルで在日同胞約400人を招いた懇談会を開いた。李さんも妻の閔香淑(ミンヒャンスク)さん(71)と正装をして臨んだ。

 この席で文大統領は無実の在日韓国人の元政治囚に対する人権侵害に言及した。…

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