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毎日新聞 2021/10/24 17:30(最終更新 10/24 18:17) 有料記事 4029文字




 アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが政権を奪還した。そこで噴出したのが「恐怖政治」への懸念だ。その一つに「残酷な刑罰」がある。9月には誘拐事件の容疑者の遺体を公共の場にさらし、刑罰の問題が改めてクローズアップされた。女性や少数民族への対応を含め、確かに「恐怖政治」の側面は否めない。だが、そうしたレッテルを貼るだけではタリバンの実像は見えてこない。【春日孝之(元毎日新聞編集委員)】

「密室の処刑は残酷ではないのか」
 誘拐事件はアフガン西部ヘラートで起きた。報道によると容疑者の男4人は実業家とその息子を誘拐しようとしたが、検問所でタリバン兵と銃撃戦になり射殺された。その数日後の9月25日、遺体は広場や交差点にクレーンでつるされた。一人の遺体の胸に「誘拐犯はこのように罰せられる」と書いた警告文が添えられた。再発防止を狙った「見せしめ」である。

 この事件を知り、私が想起したのは、かつてタリバンが首都カブールを制圧した時(1996年9月)のこと。国連施設に潜んでいた旧共産党政権のナジブラ元大統領を射殺、遺体を街路につるしたのだ。国内外を震え上がらせた事件だった。

 私がカブールを初めて訪れたのは旧タリバン政権時代(96〜2001年)の98年。内戦の舞台となった市街地のほぼ半分は廃虚のままだった。通訳で外科医のワヒードさんと遺体がつるされた現場を訪れた。彼は交差点の柱を指して「報復は当然。何万もの無実の人間を処刑したからだ。私の兄もスパイ容疑で投獄されて行方知れずだ」と語った。

 当時カブールでは不定期の金曜にサッカー競技場で「見せしめ刑」が執行されていた。ある日の情景を紹介したい。競技場の中央にイスラム聖職者が並び、その前に息子を惨殺された父親の姿があった。軍事法廷は若いタリバン兵にシャリア(イスラム法)に基づき銃殺刑を宣告していた。聖職者の一人がマイクを通して父親に「(相手を)許してあげなさい。神の慈悲が得られます」と呼びかけた。父親が許せば死刑囚はこの場で放免される。

 1万人超の市民の間から「許してやれ!」の連呼がわき起こった。父親がマイクを握る。「いやだ。息子には将来があった」。死刑囚が芝生に座らされる。刑の執行は、アフガン伝統の復讐(ふくしゅう)法に基づき、…

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