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毎日新聞 2021/11/5 10:28(最終更新 11/5 10:28) 922文字




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静岡県庁=島田信幸撮影

 未着工のリニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区を巡り、国土交通省の有識者会議(座長、福岡捷二・中央大研究開発機構教授)が大井川の水問題をまとめた中間報告案に対して、静岡県は4日までに見解を示した文書を国交省に提出した。県や流域市町が求めるトンネル湧水(ゆうすい)の全量戻しについて「JRは全量戻しの重要性を理解せず、責任感を欠いている」と厳しく指摘した。【山田英之】

 有識者会議でJR東海は工事期間中の約10カ月間、山梨県境付近で発生した湧き水が県外に流出することを認めた。中間報告案は「この湧水を戻さない場合、県が求めている全量戻しとはならない」と明記。県外流出後に同じ量の水を長い年数をかけて大井川に戻すJR東海の代替案について「JRは今後、県や流域市町の納得が得られるよう具体的方策を協議すべきである」と促した。



 一方、その後、JR東海幹部が記者会見で「全量戻しは工事中を含まない」という趣旨の発言をしたことを受け、県は見解書で「県とJRの全量戻しの認識が異なっていることが明らかになった。企業としての社会的責任が欠如していると疑わざるを得ず、認識を改めることがなければ、今後の対話で県民の理解を得ることはできない」と断言した。

 トンネル掘削による南アルプスの地下水位低下に関しても「大井川水系全体の水資源の安定性に影響が出る可能性を考慮していない」と懸念。薬液注入で水を止めるなど湧水の県外流出量を低減するJR東海の対策に「低減策の効果を評価しておらず、有効性の判断に至っていない」と注文を付けた。



 工事による生態系への悪影響に対しても「南アルプスは希少動植物が多数生息、守るべき生態系が残っている。工事による影響は計り知れず、JRは影響の回避・低減を検討しなければならない」と主張した。

 次回の有識者会議で作成される可能性がある中間報告について、県は「県の見解と相違はあるが、有識者会議が責任を持って記述するものであり、文面の修正は求めない」。一方、JR東海の姿勢に「経済的発展の視点に偏りすぎていないか。環境、地域社会、経済の未来に貢献する姿勢が根底から見られてこそ、社会的理解が得られる」と苦言を呈し、国交省に指導を求めた。