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毎日新聞 2021/11/6 13:00(最終更新 11/6 13:00) 1573文字




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老朽化した葛飾区庁舎の本館(奥)と議会棟(右)=東京都葛飾区立石で、柳澤一男撮影

 「男はつらいよ」の寅さんに、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の両さん。2人の主人公が象徴的な“下町人情の街”葛飾区の区長選が7日投票、8日開票される。子育て、教育、高齢化社会への対応、防災など他自治体と共通する区政の課題は多いが、老朽化した区庁舎の移転をどうするかが今回の明確な争点の一つになっている。【柳澤一男】

 同区の中心部近くに位置する京成立石駅前は、南口にアーケード付きの商店街、北口には「呑んべ横丁」を含む商店街があり、昭和の薫りが残る。この立石地区は、飲食店が提供する酒食の値段が安く、1000円で「べろべろ」になるまでお酒が飲めるという「せんべろの町」の呼び名もある。一方で、一歩路地に入ると車が通れないほど狭い生活道路が至る所にあり、老朽化した木造の住宅や商店が密集する。



 現在、この地を3区画に分けて再開発する計画が持ち上がっている。その計画の中で、区は2028年度に完成予定の高層ビル「北口地区東棟」の3〜13階部分に、区庁舎の移転を目指している。

 区によると、現在の区庁舎は本館と議会棟が築59年で、耐用年数の65年まであと6年しかない。耐震補強工事により建物として最低限の基準は満たしているものの、重要な防災拠点としての耐震性には足りないという。



 さらに機械室が地下にあるため、大規模水害が起きた場合は水没により区庁舎が機能しなくなる可能性も否定できないという。このため、約40年前の1978年度に完成した新館を残し、本館と議会棟を取り壊して「東棟」に移転する計画を進めている。区担当者は「防災や駅前という利便性に優れている」と利点を説明する。

 移転費用として、区はフロアの取得と備品の購入、引っ越し費用を合わせ247・2億円と見積もり、ほかに維持費などに年約4億円かかるとする。しかし、こうした計画を19年に公表した「新庁舎庁内基本プラン(中間報告)」には、「学校の改築や他の行政サービスを優先すべきだ」「現庁舎はまだ使うことができる。建て替えではなく、現庁舎を生かした計画にしてほしい」といった反対の声も寄せられた。


「にぎわいある街に戻るのか」不安の声
 立石駅近くで靴屋を営む細谷政男さん(72)は、生まれ育った立石が変わろうとすることに複雑な思いを抱いている。祖父の代からの3代目。昭和50年代には店の売り上げは右肩上がりだったが、バブルの崩壊で近隣の街に大型店やショッピングセンターができると、客足が徐々に遠のき街にかつての活気はなくなった。

 それでも、現区庁舎は立石駅から約7〜8分の道のりで、訪れる人は北口の商店街を通り抜ける。しかし「東棟」は駅前に建設され、区庁舎への来訪者は商店街を通らなくなる。一部を除いてバスターミナルも駅前に集約される予定だ。細谷さんは「防災面で再開発が必要だと言われれば、反対する者はいない。しかし、区庁舎が駅前になることも含め、再開発によって立石がにぎわいのある街に戻るかという点では不安だ」と懸念する。



 今回の区長選では、駅前への区庁舎移転を進める青木克徳氏(72)=無所属現職・自民、公明推薦=に対し、梅田信利氏(59)=無所属新人=はコスト減などの面から区立の青戸平和公園への移転を主張する。区民がいかなる選択をするのか注目される。

 区議選(定数40)も7日投票、8日開票される。現職28人、新人32人の計60人が立候補し、党派別では、自民14人▽公明9人▽共産6人▽立憲3人▽NHKと裁判してる1人▽都民ファースト1人▽生活者ネット1人▽諸派6人▽無所属19人。

 区長選・区議選いずれも投票は7日午前7時〜午後8時に区内55カ所で行われ、翌8日午前7時半から開票される。10月30日時点の選挙人名簿登録者数は38万2075人(男19万139人、女19万1936人)。