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毎日新聞 2021/11/7 09:23(最終更新 11/7 09:23) 1311文字




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ウクライナとの国境に近いロシア西部スモレンスク州エルニャに集結したとみられるロシア軍=米国の衛星企業マクサー・テクノロジーズ撮影、ロイター

 今春にロシアの軍部隊が集結し、国際的に懸念を招いたウクライナとの国境周辺で再び軍事的緊張が高まっている。米メディアはロシアの部隊が国境近くに動員されている可能性を相次いで報道。ロシア軍が今秋の大規模演習の後に9万人規模の部隊を残しているとみられる一方で、今月4日には米海軍第6艦隊の旗艦が黒海に入るなど、米軍も周辺地域で活動を活発化させている。

 ロシア軍の集結については、米紙ワシントン・ポストや米メディア「ポリティコ」が10月末以降、戦車などが大量に並べられた衛星写真やソーシャルメディアの映像などを基に相次いで報じた。



 ウクライナ国防省は今月1日、「ロシア軍の部隊の追加投入は確認されていない」と直近の動員を否定するコメントを出したが、2日には「国境付近には約9万人のロシア軍部隊が集結している」と発表。今年後半にウクライナとの国境付近で行われた演習後、国境から約260キロ離れたロシア西部スモレンスク州などに部隊が残っているとして、「ロシアは隣国への圧力のため、定期的に部隊を移動、集結させている」と非難した。

 ウクライナの国防次官は4日、地元メディアに対し、「現在の状況は心配が必要なほどではない」と指摘しつつ、来年1月にかけてロシア軍が部隊を増強する可能性に言及。「我々は戦争状態にあり、緊張が高まるリスクは常にある」と述べた。米CNNによると、2日に訪露した米中央情報局(CIA)のバーンズ長官がロシア側に懸念を伝えたという。



 米メディアの報道に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は衛星写真がウクライナではなく、ベラルーシの国境付近であると主張し「たちの悪いデマ」と報道内容を否定した。

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ロシア国防省幹部と会談するプーチン大統領(中央)=ロシア南部ソチで2021年11月3日、AP

 現在のウクライナ周辺は雨などで土壌がぬかるみ、軍事作戦に不向きな時期とされており、ロシア軍が有事に備えて部隊の装備を国境付近に残しているだけとの見方もある。ただ、冬になれば地面が凍結し、移動しやすくなるため、再び緊張が高まる恐れも取り上げられている。



 ウクライナ東部の停戦ライン付近では、同国軍が今でも親露派武装勢力と銃撃や砲撃を交わしているが、10月下旬にはトルコから購入した無人攻撃機による爆撃を初めて実施した。ウクライナを支援する米軍も同月、黒海上空で戦略爆撃機を飛行させたほか、月末から第6艦隊のイージス艦と旗艦「マウント・ホイットニー」を相次いで黒海に派遣するなど活動を活発化させている。

 10月中旬にウクライナを訪問したオースティン米国防長官も、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟について「第三国に加盟を拒否する権利はない」と発言し、加盟に反対するロシアをけん制していた。



 ロシアのプーチン政権は米軍やウクライナ軍の活動に警戒を強めている。特にウクライナのNATO加盟を越えてはならない「レッドライン」とみなしており、今後、軍事的な圧力を更に強める可能性がある。

 今春にはロシア軍が10万人を超えるとみられる部隊をウクライナ国境付近に集結させ、国際的な批判を招いた。ショイグ国防相は4月下旬に撤収を指示したが、一部部隊は演習の準備などを名目に国境周辺に残っているともみられていた。【モスクワ前谷宏】