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毎日新聞 2021/11/7 18:55(最終更新 11/7 18:56) 1253文字




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台湾の蔡英文総統=米ニューヨークで2019年7月、隅俊之撮影

 日米中韓や台湾など21カ国・地域でつくるアジア太平洋経済協力会議(APEC)は8、9日に閣僚会議、12日に首脳会議を開く。中国の反対で大半の国際機関から排除されている台湾の蔡英文政権にとって、APECは世界に直接、主張を伝えられる極めて貴重な機会。台湾は首脳会議で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加入支持を働き掛ける。中国もTPP加入を目指しており、中台が応酬を繰り広げる可能性がある。

 APECは、太平洋を囲む国・地域が貿易の自由化などを協議する経済連携の枠組み。今年の議長国はニュージーランド。新型コロナウイルス対策のため閣僚会議、首脳会議ともにオンラインの形式を取る。新型コロナからの経済回復などを議論する。



 TPPに加盟する全11カ国はAPECにも名を連ねる。TPPには中国と台湾が9月、相次いで加入申請した。加入には全加盟国の承認が必要なため、台湾は中国に後れを取れば加入が難しくなる。

 蔡政権は首脳会議に、世界的な半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)の創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏(90)を出席させる。蔡氏は今月2日、張氏と共に記者会見に臨み、「この機会に、より多くのAPEC加盟国から台湾への支持を勝ち取りたい」と強調した。張氏は、TPPが求める経済自由化の水準に「台湾のレベルは非常に近い」と述べ、首脳会議の場で積極的にアピールする考えを示した。



 台湾は李登輝総統時代の1991年、APECに中国と同時加盟した。だが93年から始まった首脳会議に台湾の総統は一度も出席できていない。中国が、台湾の加入条件としてAPEC側と@「中華台北」(チャイニーズ・タイペイ)の名義で加入A会議には経済部局のみの出席を認める−−ことで合意した、としているためだ。台湾は毎年の首脳会議に、経済人や経済閣僚らを出席させており、張氏の参加は今回で4年連続となる。

 世界的な半導体不足が深刻化する中で、世界最先端の半導体工場を擁するTSMCの重要性は増している。張氏は2018年に引退したが、今もTSMCに絶大な影響力を持つ。オンラインのため各国首脳と直接、接触する機会はないものの、台湾としては張氏の知名度も生かして発言力を高め、TPP加入に向けた環境整備を図る狙いがある。



 蔡氏は張氏の出席が「国際社会に向け、地域の発展に貢献しようとの台湾の意思を明確に伝えることができる」と強調。「台湾のTPP加入によって、地域の経済の安全を強化できる」と訴えている。

 中国は台湾を「不可分の領土」としており、台湾が国連を含めた国際機関に参加することを原則として認めていない。中国と対立する民進党の蔡氏が16年に総統に就任した後は、世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)へのオブザーバー参加も、中国の介入で認められなくなった。また台湾が外交関係を維持する国は15カ国しかない。このため蔡政権は毎年、国際社会で存在感を示す場としてAPECに並々ならぬ決意で臨んでいる。【台北・岡村崇】