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2021年11月14日18時30分

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衆院山口3区へのくら替え出馬を表明し、記者会見を行った林芳正元文部科学相=7月15日、山口県宇部市

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衆院本会議に臨む自民党の岸田文雄総裁(左)と、首相指名選挙の投票に向かう安倍晋三氏(右)=10月4日、国会内




 与野党が激突した10・31衆院選は、自民党が単独で絶対安定多数の261議席を獲得、公明党(32議席)を加えた与党合計でも公示前勢力(305議席)に迫る293議席と、事前の苦戦予想を覆して勝利した。国民の信任を受けた岸田文雄首相は、11月10日召集予定の特別国会冒頭での首相指名を受け、同日中に第2次岸田政権を発足させる。


 そうした中、衆院山口3区では参院からくら替えした自民党の林芳正元文部科学相が圧勝し、「次回以降の総裁選への挑戦権を手に入れた」(自民幹部)として注目された。当初は、くら替え出馬への党内の賛否が入り乱れ、当選10回で現職だった河村建夫元官房長官との激しい公認争いは「山口3区の乱」と呼ばれた。しかし、衆院選公示直前に河村氏が不出馬・政界引退を表明したことで、表向きは“円満決着”の形となった。ただ、対立と迷走を繰り返した公認争いの舞台裏は、党内の権力闘争に加え、次期衆院選やポスト岸田も絡めた「策謀が渦巻く政争」(自民長老)だったのが実態だ。
 そもそも、林氏は岸田派ナンバー2の座長で、河村氏は二階派の会長代行だった。このため、公認争いは「岸田VS二階」の代理戦争となったが、幹事長だった二階俊博氏が総裁選での岸田氏勝利を受けて「自民最高実力者」の座を失ったことで、それまでの「現職優先」方針が覆り、後ろ盾を失った河村氏が涙をのむ結果となった。
 加えて、河村氏の後継者の長男・建一氏は、当選確実な比例中国ブロック単独候補としての上位登載がかなわず、縁もゆかりもない同北関東ブロックでの32位に追いやられ、次点で落選した。しかも、この党本部決定につながったのは、山口県連会長の岸信夫防衛相らが提出した「(建一氏は)県連と何ら関わりのない候補」とする抗議文書。岸氏は安倍晋三元首相の実弟で、党内では「山口のドンの安倍さんが河村家を地元から追い出すための陰謀」との臆測が飛び交う。
◇次期衆院選とポスト岸田で思惑
 というのも、次期衆院選では山口県の小選挙区がこれまでの4から3に減る予定で、現職の安倍(4区)と岸(2区)の両氏、高村正大氏(1区)、林氏のうちの3人が小選挙区公認候補となる。高村氏の父・正彦元副総裁は安倍氏と極めて親しい関係だが、林氏は安倍家と肩を並べる山口の名門政治家一家の4代目。安倍氏の父・晋太郎元外相(故人)と林氏の父・義郎元蔵相(同)は、中選挙区時代に「安倍家VS林家」の激しい覇権争いを展開しただけに、「次は高村氏がはじき出される」とのうわさもささやかれている。
 さらに事情を複雑にしているのは、すでに林氏が岸田派(宏池会)の次期総裁候補として、ポスト岸田での総裁選出馬を目指していることだ。林氏は近い将来、首相の後継者として岸田派を林派に衣替えするとみられている。しかも、来夏の参院選での与党勝利で首相が3年の任期を全うできる状況となれば、「任期満了まで解散せずに退陣する意向」(側近)だとされる。
 もちろん、安倍氏周辺はこうした動きに不快感を隠さない。山口の自民党参院議員を見れば、10月24日の参院山口補選で当選した北村経夫氏や来夏参院選で改選予定の江島潔氏も安倍氏側近で、「林氏の総裁選出馬など許さない雰囲気」(安倍氏側近)とされる。しかし、林氏は10月発売の月刊誌で「次の総理はこの私」と宣言し、首相も今後、同氏を党・内閣の要職に起用する構えだ。このため、3年間は首相を輩出してきた山口県の覇権をめぐる「安倍・林戦争」が激化することは、間違いなさそうだ【政治ジャーナリスト・泉 宏/「地方行政」11月8日号より】。