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毎日新聞 2021/11/27 08:30(最終更新 11/27 08:30) 1400文字




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イチゴ農家のビニールハウス内にある暖房。燃料費の高騰で頭を悩ませている=奈良県平群町で2021年11月18日、久保玲撮影

 世界的な原油価格の高騰を受け、ガソリンや灯油、重油の値段が上昇している。米国や日本などが備蓄石油の放出に踏み切ることになったが、量が限定的なため価格を下げるのは難しいとの指摘もある。本格的な冬を前に、さまざまな現場に影響が広がっている。

生産者に厳しく
 イチゴの出荷量が近畿で最多の奈良県。ブランド品種「古都華(ことか)」のハウス栽培を手掛ける「辻本農園」(平群(へぐり)町)の辻本真史社長(36)は燃料費の高騰に頭を抱える。



 農園ではビニールハウスの暖房と、葉の光合成を促す炭酸ガス発生装置に重油や灯油を使う。燃料費は毎年500万〜600万円かかるが、最近の原油価格高騰により「現状でも費用は2割上がっている」。それでも販売価格への上乗せはしないという。

 古都華は品質保持のため、緩衝材の入った専用パッケージで販売している。このため、出荷にかかる経費は他のイチゴより割高だ。クリスマスを来月に控え、イチゴは間もなく出荷のピークを迎える。辻本さんは「今年はとにかく量を売るしかない」と覚悟を決めている。



 最盛期を迎えた日本海の冬の味覚、ズワイガニの漁にも影を落とす。兵庫県の北西部にあり、海に面する新温泉町。浜坂漁業協同組合の川越一男・組合長は船主でもあり、燃料の重油の価格上昇に頭を悩ませる。燃料費はここ1年で1・5倍に上がり、大型船では負担増が月200万円超となっている。買い付け人が魚価を決めるため、燃料費を転嫁することは「到底考えられない」と話す。

 原油高は、ナイロン製の漁具や発泡スチロール製の魚箱にも影響している。川越組合長は「非常に経営が厳しくなっている。燃料費の値上がりは深刻で、現状の支援制度ではとても追いつかない」と国に対応策を求める。


価格右肩上がり
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レギュラーガソリンの小売り価格推移

 ガソリンや灯油、重油の価格は2020年春以降、ほぼ右肩上がりの状態が続く。経済産業省資源エネルギー庁によると、レギュラーガソリン1リットル当たりの小売価格は20年4月に全国平均で130円前後だったが、21年2月に140円台、3月末に150円台とハイペースで上昇。11月中旬からほぼ横ばいで推移するものの、22日時点で168・7円と7年ぶりの高水準となっている。政府は価格が一定水準を超えた場合、石油元売り各社に補助金を出して小売価格の上昇を抑える方針を打ち出した。価格が170円を超えたら発動し、最大5円を抑制する案があるという。

 生活の足として車が欠かせない地方では、特に負担が大きい。松江市のガソリンスタンドで給油していた青山陽一さん(68)=同市=は「島根に住む以上、車は靴と一緒。車がないと、どこにも行けない」と話す。自宅から20キロほど離れた職場に車通勤しているため、ガソリン価格が上がれば出費がかさむ。「値上げは痛い。生活費をどこかで切り詰めないと」とこぼす。



 スーパーではハウス野菜を中心に値上がりし、電気料金やガス代も上がっている。吉野家は10月、牛丼の「並盛」の店内飲食価格を39円値上げして426円にした。原油高で物流費がかさんだことが一因としている。原油高対策で各国が備蓄石油の放出を決めたが、石油連盟の杉森務会長(ENEOSホールディングス会長)は「数量が少なく価格を下げるのは難しいのではないか」と話しており、効果はまだ見通せない。暮らしへの影響はまだ続きそうだ。【稲生陽、浜本年弘、松原隼斗】