https://www.sponichi.co.jp/society/news/2021/11/30/kiji/20211129s00042000609000c.html
[ 2021年11月30日 05:30 ]

https://www.sponichi.co.jp/society/news/2021/11/30/jpeg/20211129s00042000629000p_thum.jpg
日大の田中英寿理事長
Photo By 共同

 日本大学医学部付属板橋病院の建て替え工事を巡る背任事件を捜査してきた東京地検特捜部は29日、所得税約5300万円を脱税したとして所得税法違反の疑いで同大理事長の田中英寿容疑者(74)を逮捕した。背任容疑での立件は見送っていたが、側近で背任罪で起訴された元理事井ノ口忠男被告(64)らが多額の資金を提供したと供述しており、脱税容疑を立証できると判断したもようだ。

 特捜部が家宅捜索した自宅から現金1億円超が見つかり、脱税の疑いが指摘されていたマンモス大学のドンについに捜査のメスが入った。逮捕容疑は、大阪市の医療法人「錦秀会」の前理事長籔本雅巳被告(61)=背任罪で起訴=らから受領したリベート収入などを除外し確定申告書を提出。1億円超の所得を隠し、2018年と20年分の所得税計約5300万円を免れた疑い。田中容疑者は「現金を受け取っていない」と容疑を否認している。

 特捜部は10、11月、工事の設計監理業務と医療機器などの納入を巡り、日大から計約4億2000万円を流出させたとして、井ノ口、籔本両被告を起訴。

 関係者によると、設計監理業務を受注した設計事務所から籔本被告側に2億2000万円が流出した2日後の昨年8月、同被告が田中容疑者に3000万円を渡したとされ、その後も理事長再任祝いの名目で3000万円を提供したという。

 井ノ口被告は、日大に約2億円の損害を与えた医療機器などの納入をリース会社と契約してほどない今年6月ごろ、取引の謝礼名目で計3000万円を提供したと供述。2人の提供額は総額1億円を超えるとみられる。

 杉並区の自宅から見つかった1億円超の一部には関西の銀行の帯封が付いていたといい、特捜部は東京国税局査察部と連携して資金提供との同一性などを調べてきた。日大広報部は「理事長の役員報酬や妻が経営する飲食店の利益など個人的な財産で、税務申告は適切に行っていると聞いている」としていた。

 田中容疑者はこれまでの任意の聴取で現金授受のほか、背任事件への関与を否定。「日大は損害を受けていない」として被害届の提出も拒んでいた。自宅への家宅捜索の2日後に行われた9月の理事会では「俺は関係ない。辞めることはない」と力説したが、報道陣には無言を貫いた。

 一方、井ノ口被告は調べに、2つの背任事件のいずれでも田中容疑者には資金流出の構造などは報告していなかったと説明。特捜部は田中容疑者の主張を崩せず、事前に共謀したと裏付けるのは困難と判断、背任容疑での立件は見送っていた。

 しかし、5期13年にわたり理事長に君臨してきたアマチュア相撲界の超大物は、業務上横領など複数の疑惑が取り沙汰されてきた、捜査機関の長年の「標的」。特捜部は「ごっつぁん体質」に切り込む方向にかじを切り、脱税事件につなげる異例の捜査を展開した。

 ▼元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士 脱税額5300万円での逮捕は妥当だ。まずは、金の流れを徹底的に調べることになる。場合によっては脱税額はさらに増える。一方、今後、背任容疑で逮捕される可能性は小さいだろう。勾留期間が延長されても、起訴後の12月下旬に保釈されれば、実質的に捜査は終了。それまでが勝負どころだが、田中容疑者が「真実はこうでした」と全面的に話すことでもなければ難しい状況だ。