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[ 2021年12月19日 05:30 ]

激動2021 政治社会(3)

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首相を取り巻く相関図
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 10月に新政権を発足させた岸田文雄首相。安定した政権運営のために屋台骨となっているのが、最大派閥の安倍派だ。会長の安倍晋三元首相自ら「背骨」と称するが、これ以上「数の力」で存在感を増していけば、首相がもくろむ長期政権はかすむ。影響力をそぐために麻生太郎副総裁との盟友関係にくさびを打ち込むような布石も見え隠れしており、「聞く力」ならぬ「離す力」が来年以降の大きな焦点になりそうだ。

 今月6日、都内で開かれた安倍派の政治資金パーティーに姿を見せた首相。約2000人が集まって安倍氏の会長就任を祝った盛大な会の壇上、こうあいさつした。「(安倍派に)新規入会者が続出している。宏池会(岸田派)にも少しお裾分けいただけないか」。安倍派は党内最大の95人に対し、岸田派は42人。新たなるキングメーカーが同じ壇上で「日本政治の背骨を担ってきた派閥の会長として職責を尽くす」と意気軒高だったのに比べて、首相の言葉には第5派閥の悲哀がにじんだ。

 新型コロナウイルス対策の後手批判で短命に終わった菅政権の苦い経験から、首相は先手の対応で長期政権をもくろむ。いち早く名乗りを上げた総裁選で、二階俊博幹事長(当時)交代を念頭にした党改革案で“二階切り”。政策面でもオミクロン株の脅威に備えて、全世界からの入国禁止措置で「先手の岸田」をアピールした。

 ところが、邦人が一時帰国できなくなるなど現場は混乱。他の政策でもドタバタが相次いだ。18歳以下への10万円相当の給付方法で迷走。衆院選で落選した飲み仲間の石原伸晃元幹事長を内閣官房参与に任命も、コロナ助成金受給が引き金になってわずか1週間で辞任に追い込まれた。

 それでも「当面は安泰」と政界関係者。その理由は安倍、麻生両氏の存在だ。党内No・1、2の安倍、麻生両派は合わせて150人規模で、同関係者は「首相は総裁選、衆院選と続いた今年は2人を一体として味方に引き入れることに腐心した」と解説した。

 その一方、“操り人形化”を避けるように党執行部・閣僚人事では安倍色を排除。こうした文脈から、麻生派と同数の茂木派を率いる茂木敏充幹事長との距離も縮めていると永田町では映り、「岸田派、麻生派、茂木派の3派連合で安倍氏の影響力を弱めることが、生き残るウルトラC」とささやかれている。

 しかし、これには情勢を読み切る高度な政局観が必要。永田町関係者は「動きが察知された時点で安倍氏につぶされる。麻生氏が盟友を裏切り安倍氏包囲網に乗ることもない」と疑問を投げかける。

 分水嶺(れい)と目されるのは来夏の参院選。自民党関係者は「ここを乗り切れば長期政権が視野に入る」とした上で「安倍氏という足かせのないオリジナルの政権基盤を築こうとシフトしていくだろう」と指摘。具体的な動きとして「安倍、麻生両氏の間の距離を広げることを画策していく」と見立てる。

 2人の盟友関係にくさびを打つ方策として上がるキーワードが大宏池会構想だ。同根の岸田、麻生両派に谷垣グループが再結集すれば100人超の一大勢力が生まれるというもの。首相は構想に賛成している麻生氏との面会を重ねている。

 自民党関係者は「宏池会という固まりで考えるとハードルが高い」とし、「実は緩やかな連携の動きは水面下で始まっている」と声を潜めた。政局に弱い「お公家集団」と揶揄(やゆ)されてきた宏池会を率いる首相。政局でも機先を制するために「離す力」を磨く一年になりそうだ。 (特別取材班)