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毎日新聞 2021/12/19 07:00(最終更新 12/19 07:00) 有料記事 2973文字




 9月1日、東京都墨田区で行われた関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式。その隣では、「朝鮮人虐殺はなかった」と主張するグループが別の集会を開いていた。「『つなみ』の子どもたち 作文に書かれなかった物語」などの著書があるジャーナリストの森健さん(53)が当日の様子を初めて取材した。森さんの目に映ったものとは。【栗原俊雄/学芸部】

「ショックを受けた」
 現場では緑色のフェンスが延々と続いていた。高さは1・5メートルほどだろうか。虐殺などで亡くなった朝鮮人犠牲者を追悼する式典と、それに反対の立場をとる「そよ風」を名乗る団体などによる「集会」がともに行われている。緑色のフェンスによって、両者が行き来できないようになっている。

 「そよ風」は集会の様子をネット配信していた。さらに、100人をゆうに超えると思われる警察官や警備、都の職員たちが険しい顔であちこちに立っている。「異様ですね……」。森さんはそうつぶやいた。

 森さんがこの追悼式に関心を持ったのは、2019年9月10日、毎日新聞のニュースサイトにアップされた記事がきっかけ。タイトルは「静かな追悼の場に『ヘイトスピーチ』 関東大震災犠牲者追悼式典ルポ」だった。

 今から2年前、19年9月1日、この団体は朝鮮人犠牲者追悼式と同じ時間に集会を進めていた。マイクで参加者が次々とあいさつ。異口同音に、朝鮮人犠牲者追悼碑に刻まれている犠牲者「6000人余」を否定していた。さらに朝鮮人による暴動やテロなどがあったとして、それを「鎮圧」したという歴史認識を示す参加者もいた。関東大震災後に朝鮮人が殺されたのは、彼らが犯罪をしたから殺された、という言い分である。さらに「犯人は不逞(ふてい)朝鮮人、朝鮮人コリアンだったのです」「不逞在日朝鮮人たちによって身内を殺され、家を焼かれ、財物を奪われ、女子供を強姦(ごうかん)された多くの日本人たち」などとも述べた。こうしたスピーチについて、拡声器をわざと「朝鮮人犠牲者追悼式典」の方に向けて、大音量で流していた。上記の言い分がはっきりと聞こえた。

 森さんは記事を読んでショックを受けたという。「なぜこの場所でこの日にこんな集会をわざわざやるのか」。この集会における文言については20年8月、東京都がヘイトスピーチと認定した。

 さて、今年9月1日の集会。…

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