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毎日新聞 2021/12/24 09:12(最終更新 12/24 09:12) 1552文字




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住民説明会で頭を下げる防衛省の担当者ら=秋田市新屋で2021年12月23日午後7時0分、猪森万里夏撮影

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)への配備計画撤回を巡り、防衛省は23日夜、同市の勝平地区コミュニティセンターで住民説明会を開いた。昨年6月の撤回表明から約1年半。だが防衛省側は撤回に至った経緯について従来の説明を繰り返し、地元が問題視してきた「新屋演習場と住宅地との距離の近さ」を巡っては認識を明言しなかった。納得のいく説明を得られなかった住民らからは怒りの声が続出した。【高野裕士、下河辺果歩、猪森万里夏】

 イージス・アショアについては昨年7月、河野太郎防衛相(当時)が配備候補地とした地元に計画断念を巡り防衛省として追加説明する意向を示していた。だが新型コロナウイルス感染拡大を理由に住民説明の場はなかなか設けられず、今回ようやく実現した。



 説明会には東北防衛局の市川道夫局長らが出席。住民向けに会場に用意された100席はほぼ全てが埋まった。市川局長は「地元の皆様には大変心配な思いをさせてしまった。大変申し訳ございませんでした」と謝罪。計画断念の理由として、迎撃ミサイル発射後に切り離す(推進装置の)ブースターを安全な海上に確実に落下させるためにはシステム全体の大幅な改修が必要で、相当の費用と期間を要することが判明したという従来の説明を繰り返した。

 計画断念と至ったことについて、市川局長は「北朝鮮が弾道ミサイル発射を繰り返すなど国の安全保障環境が厳しさを増す中、配備を急ぐ必要があると考えていた。結果的に地元に対して慎重さ、誠実さを欠く対応になった」と釈明。また2019年6月に判明した調査報告書の誤りを例に挙げ「配備にかかる検討のための体制が十分でなかった面は否定できない」とした。



 地元が特に問題視していた演習場と住宅地との距離については説明資料に記載はなかった。住民からは防衛省側の対応への不満や、配備計画に振り回されたことに対する悲痛の声などが続出した。

 新屋演習場周辺の住民でつくる新屋勝平地区振興会の佐々木政志会長は「県民と市民全てが賛成、反対にかかわらず心を痛めた。心のこもった謝罪を切望したい」と訴えた。別の参加者は「なぜ新屋の住宅密集地に(イージス・アショアを)持ってこようとしたかについて答えていない。新屋住民にとって一番大事な問題への答えをはぐらかしている」と批判した。



 市川局長は「『住宅地に近い』と指摘を受けた結果として、19年10月から実施した再調査で住宅地との距離を重要な考慮要素とした。その再調査が終わる前に、ブースターの問題で配備断念になった」と説明。住宅地との距離に対する防衛省側の認識については最後まで明言しなかった。
イージス・アショアの配備計画を巡る経緯
2017年12月 政府が2基導入方針を閣議決定

  19年 5月 防衛省が秋田、山口両県の陸上自衛隊演習場を「適地」とする調査結果を公表

      6月 防衛省の調査報告書に誤りが判明。さらに住民説明会で職員が居眠り。岩屋毅防衛相(当時)が県内入りし佐竹敬久知事らに謝罪、再調査の意向を表明



      7月 参院選秋田選挙区で配備反対を訴えた野党統一候補の無所属新人、寺田静氏が当選

     10月 調査報告書の誤りを受け、外部有識者による専門家会議の初会合開催

  20年 1月 佐竹知事と秋田市の穂積志市長が防衛省を訪れ、河野太郎防衛相(当時)に新屋演習場への配備は「地元の理解を得られない」と申し入れ

      6月 河野防衛相(当時)が配備計画停止を表明。河野氏が県庁を訪れ佐竹知事らに一連の不手際を謝罪。県内配備計画は白紙撤回に

      7月 河野防衛相(当時)が計画断念を巡り、配備候補地とした地元に防衛省が追加説明をする意向を表明