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毎日新聞 2021/12/26 17:00(最終更新 12/26 17:00) 有料記事 3560文字




 IT人材は各企業から引っ張りだこだ。なかでも熱い視線を浴びているのが、米グーグル最高経営責任者(CEO)のスンダー・ピチャイ氏ら世界的なIT人材を輩出しているインド工科大(IIT)の卒業生たち。IIT卒業生たちが日本でも活躍していると聞き、日本社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状と課題について、率直な意見を聞いてみた。取材に応じてくれたIIT卒業生は6人。日本のDXに彼らが付けた点数とは……。【川上珠実/デジタル報道センター】

 「日本は質の高いIT人材を有していますが、他の職種と比べて給与水準が特別に高いということはありませんね」。IITデリー校を2015年に卒業後に来日し、現在はベンチャー企業などに投資する東京都内のベンチャーキャピタルで働くアマンディープ・シンさん(29)は、比較的差がない日本の給与水準に着目する。インドでは業種間の待遇の差が大きいのだという。

採用に3000万円提示
 まずはシンさんが卒業したIITとは。コンピューターサイエンスや電子工学、機械工学などを教える理工系の有名国立大で、1951年に西ベンガル州のカラグプルに設立された。現在はインド国内に23校ある。入学試験の競争倍率は50倍以上といわれ、優秀な人材が集まる理系のトップ校だ。

 IT関連はインドの若者に人気だ。「さまざまな要因がありますが、給与水準が高いということが挙げられるでしょう。インドに業務をアウトソースする海外企業が多く、IT分野の年収はインドの平均の10倍以上に上るといわれています」。シンさんは表情を変えずに「10倍」という数字を口にした。本当なのか。

 インドの経済紙エコノミック・タイムズ(電子版)が、12月に解禁されたばかりのIIT生の採用活動を記事にしていた。その中にこんなケースが紹介されている。米配車サービス大手のウーバー・テクノロジーズはIIT生の新卒採用の条件として、基本給約960万ルピー(約1440万円)に契約金やボーナスを合わせて計約2000万ルピー(約3000万円)を提示した。新卒IIT生に1000万円以上を提示する国内企業もあるというのだ。

 米国などのIT企業のインド国内拠点に就職するIIT生も多いが、キャリアを重ねて海外にある本社の幹部に迎えられた卒業生もいる。今年11月にツイッター社のCEOにIIT卒業生のパラグ・アグラワル氏が就任している。ちなみに日本のソフトバンクの副社長だったニケシュ・アローラ氏もIIT出身だ。

 IIT卒業生でもある東京国際大国際戦略研究所のパラグ・クルカルニー教授はインドのIT人材事情をこう説明する。

 「インドでは昔から子どもをエンジニアか医者にするのが親の夢と言われてきましたが、現在のようにIT分野が注目を集めているのはこうした成功者の存在が大きいでしょう。90年代まではIITもインド全国で数校しかありませんでした」

 教授は01年にIITカラグプル校で博士号を取得し、米国のIT関連企業などで経験を積んだ後に自らインドで起業した経験を持つ。

IIT同窓会の強い絆
 では、IIT出身者の強みとは何だろう。10年にIITカンプール校で修士課程を修了して来日し、クリーンエネルギー技術の研究開発に携わるソーラブ・シャーマさん(37)は「同窓会組織の絆が強いのが特徴」という。

 「毎年の同窓会では家族や孫を連れてくる卒業生もいます。…

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