https://www.sankei.com/article/20211231-WHXWVO5JANK7XGHJQENDXQFXXI/
2021/12/31 05:00



JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線をめぐり、水資源への影響を懸念する静岡県が県内のトンネル工事の着工を認めていない問題で、国土交通省の有識者会議が中間報告をまとめた。

南アルプスの地下トンネル工事で、県内を流れる大井川の流量が減少する可能性について、報告書は「工事で出た湧水を適切に川に戻せば、中下流域の流量や地下水への影響は小さい」とした。専門家による一定の結論が出たことで協議加速を期待したい。

ただ、この報告書について県側は、着工後の湧水の戻し方などが示されていないとして、さらに協議が必要としている。

JR東海が今後も地元に説明を尽くすのは当然だ。そのうえで政府にもリニア新幹線に地元の理解を得る努力が欠かせない。

静岡県は、トンネル工事で大井川の水源近くの湧水が県外に流出し、川の流量が減る事態を懸念している。JR東海は、湧き出た水の全量を川に戻すとしているものの、戻す量や時期などで両者が対立したため、専門家を集めた国交省の会議で議論を続けてきた。

報告書はJR東海の主張を追認した格好だが、生態系に与える影響などの協議も残っている。JR側は地元自治体に対し、引き続き丁寧な説明で理解を得てほしい。そこでは環境対策の徹底に加え、地元振興などでも全面的に協力する姿勢を打ち出すべきだ。

リニア新幹線は東京―名古屋―大阪を最短1時間あまりで結ぶ国の新たな動脈で、国家的な事業と位置付けられている。地震などの災害発生時には、東海道新幹線の代替路線の役割も担う。だが、静岡県内の着工遅れなどに伴い、令和9年としてきた東京―名古屋の開業遅れは確実な情勢だ。

すでに名古屋などではリニア開業を見込んだ再開発も始まっており、政府も当事者意識を持つべきだ。JR東海に地元への丁寧な説明を求めたが、丸投げするのではなく、事業者と協力し地元の理解を得る必要がある。リニア新幹線の意義も広く訴えてほしい。

リニア新幹線をめぐっては、岐阜県内のトンネル工事で作業員が死傷する崩落事故が発生した。この事故を受けてJR東海はトンネル工事を一時中断し、安全対策を強化した。工事に伴う事故などの防止徹底もリニア新幹線の理解促進には不可欠である。