政府が「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産への推薦を2021年度は見送る方向で検討していることが20日、分かった。歴史問題を理由に韓国が反発しており、23年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会での登録は見込めないと判断した。24年以降の登録を目指す方針。

 ただ自民党内の保守系議員から「推薦すべきだ」との声が強まっており、今年2月1日のユネスコへの推薦書提出期限までに最終判断する。

 国の文化審議会は昨年12月28日、世界遺産にふさわしい価値があると評価し、23年に登録審査を受ける候補として佐渡金山を選定した。ただ、文化庁は「文化審の候補選定は推薦の決定ではない」と表明し、「今後、政府内で総合的な検討を行っていく」と異例の文言を付けて推薦決定を留保。一方、韓国政府は、かつて朝鮮半島出身者が過酷な労働に従事したとして、選定の撤回を要求した。

 ユネスコは昨年、貴重な文書などを登録して保存する「世界の記憶」で、関係国の異議申し立てを認め、合意がなければ審査に入らないとする制度を導入した。「南京大虐殺」関連資料の登録をきっかけに日本が改革を主導した経緯がある。

 世界遺産の審査に同様のルールはないが、他国が反対する案件を推薦するのは説明が付かないとの指摘が政府内にある。世界遺産委では関係国間で折り合えない場合、審議が無期限延期となることがあり、韓国が強硬に反対すれば登録されない可能性もある。

 佐渡金山は「相川鶴子金銀山」と「西三川砂金山」の二つの鉱山遺跡で構成。17世紀に世界最大級の金の産出量を誇ったとされる。

◎強行リスク政府懸念

 政府が「佐渡島の金山」の世界文化遺産への推薦を見送る方向で検討している背景には、韓国が反発する中で推薦を強行すれば、最悪の場合、世界遺産登録の道が完全に閉ざされかねないとの懸念がある。与党・自民党内の推薦に向けた動きも、保守系議員を中心に強まる一方、韓国に反論するには準備不足だとして見送りを容認する声も多く、広がりを欠いている。

 「登録を実現することが最も重要だ。何が効果的かを検討している」。20日午前の会見で、木原誠二官房副長官は明言を避けつつも推薦見送りをにおわせた。

 政府関係者の脳裏に浮かぶのは、2015年に長崎県の端島(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された際の日韓対立だ。

 韓国が端島で「戦時中、朝鮮半島出身者が強制的に働かされた」と主張し、登録の可否を決める世界遺産委員会の審議は難航。日本が「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と表明し、登録にこぎ着けたが、昨年の世界遺産委で、その「対応」が不十分だとする決議が採択されるなど今も尾を引く。

 世界遺産の登録は21の委員国の審議で決まる。結果には四つの区分があり、最も悪い「不記載」は原則、再推薦できない。韓国の強い反発を受けて「不記載」になれば登録を断念せざるを得ないだけに、外務省幹部は「慎重にやらないといけない」と説明する。

 県などは佐渡金山の世界遺産としての推薦期間は江戸時代までで、朝鮮人労働者が働いていた戦時中とは異なると強調。自民保守系議員も政府に対して韓国に反論するよう突き上げる。

 ただ、自民党内も一枚岩にはなっていないのが実情だ。同党幹部は歴史と文化的価値を切り離すことに理解を示しつつも「韓国は一体のものとして見てくる。それを見越した対応をするのが政治だ」と指摘する。

 「明治日本」推薦時は内閣官房に専任の部署を設けて韓国と調整した。だが、今回は司令塔が不在で、党幹部は「戦える準備ができていない」と冷ややかだ。

 佐渡金山を巡っては、朝鮮人労働者の実態について見解が分かれている。日韓の対立を見据え、国際社会に十分な説明をするための戦術が不可欠だったが、方針は定まっていなかった。

 政府からはしごを外された格好の本県関係者。登録への要望活動のため、20日に上京した「佐渡を世界遺産にする会」の中野洸会長は、政治問題に巻き込まれたことに怒りをにじませつつ、こう訴えた。「事実を日本政府としてそろえていただきたい」

新潟日報 2022/01/20 22:30
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