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2022/1/28 19:55


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世界文化遺産の国内推薦候補に選ばれていた「佐渡島の金山」のユネスコ推薦などについて記者団の取材に応じる岸田文雄首相=28日午後、首相官邸(矢島康弘撮影)

岸田文雄首相が「佐渡島の金山」(新潟県)の世界文化遺産への推薦を表明した。外務省は当初、戦時中に朝鮮半島出身者への「強制労働」があったと独自の主張を展開する韓国との新たな「歴史戦」に突入することを懸念する声が強く、今年度の推薦に後ろ向きだった。だが首相は推薦を見送っても韓国の姿勢が改まり、登録への道が開けるとの保証はないと判断し、外務省を押し切って自ら決断した。

「最後は俺が決める」
26日夜、首相は周囲にこう語り、翌27日には自らの意向を表明する決意を語っていた。佐渡金山をめぐり外務省は、早々に推薦見送りの調整に動き、自民党重鎮らへの根回しに入っていた。これに対し、党の保守系議員らは「来年に(推薦を)先送りして登録の可能性が高まるのか」(安倍晋三元首相)などと反発を強めていたため、党内では「政局の一環だ」(中堅)との声すら飛び交ったが、首相はこの時、推薦に踏み切ると腹を固めていた。

首相は昨年末に佐渡金山が世界遺産の推薦候補に選ばれて以降、推薦の可否を検討してきた。外務省の懸念の一つは、韓国が3月に大統領選を控え、「反日」的な主張を展開する陣営が佐渡金山を「日本たたき」に利用することだった。首相も当初は「簡単には通らない」と漏らしていた。加えてウクライナ危機を抱える米国が日韓の対立を敬遠するとの見立てもあり、首相は推薦する場合としない場合のメリットとデメリットを慎重に吟味し続けた。

だが、首相は現在も韓国との歴史戦の最中にある長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」の登録時の外相だ。当時、日本は韓国の主張を一部認め、登録を実現したが、韓国はその後も問題を蒸し返している。韓国の出方を熟知する首相には譲歩する選択肢はあり得ず、最終的には地元・新潟の強い希望も踏まえ、推薦へとかじを切った。

ただ、登録を決定する世界遺産委員会の多数が韓国側の主張に傾けば、登録実現はおぼつかなくなる。このため、首相が着手したのが韓国の攻勢に対する徹底した理論武装だ。

「『歴史戦チーム』を復活させたい」

22日、首相は軍艦島の登録時に韓国と対峙した安倍氏にこう打ち明けた。安倍政権では韓国側の主張に反論するため省庁一体で取り組み、首相も同様のチームを発足させるという。「登録に向けて早く議論を始めるべきだ」と語る首相の「歴史戦」はすでに始まっている。(永原慎吾)