文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト


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「金曜ナイトドラマ『愛しい嘘〜優しい闇〜』 ・ テレビ朝日」より

 波瑠、林遣都、新川優愛、溝端淳平、本仮屋ユイカ、黒川智花……主要キャストの顔ぶれを見ると、とても深夜帯とは思えない。今冬ドラマの中でもトップクラスの俳優陣を揃えた『愛しい嘘〜優しい闇〜』(テレビ朝日系)。実際、当作の放送が発表されたとき、業界内でも「波瑠と林遣都で23時台なのか?」と驚きの声があがっていた。

 ホームページの「イントロダクション」に書かれた見出しが、「当作をどう見ればいいのか」を示唆している。

「渦巻く≪嘘≫と≪闇≫、≪愛憎≫が引き起こす≪同級生“連続不審死”事件≫ 登場人物は全員嘘つき!? ―最後の最後まで予測不能― 超高速展開で二転三転する 本格ラブサスペンスがこの冬開幕!」

「嘘」「闇」「愛憎」「連続不審死」「全員嘘つき」「最後の最後まで予測不能」「超高速展開」「二転三転」……ここまでやるとチープに見えてしまうほどのあおりっぷりだが、実際のところ同作が不穏なムードで満ちているのも確かだ。

『真犯人フラグ』との決定的な違い
 1月28日に放送された第3話も、一貫して不穏なムードが貫かれていた。オープニングは、主人公・今井望緒(波瑠)の「真実を嘘で覆い隠して過去を忘れたつもりでいた。だけど過去は私たちを忘れてはくれなかったのだ」というモノローグからスタート。冒頭から「悲劇的なことが起こるのだろう……」と思わされた。

 次に野瀬優美(黒川智花)が夫・野瀬正(徳重聡)に暴力をふるわれるシーンが映され、再び望緒の「もしもこのとき、優美の手を取って一緒に逃げていれば、この先の運命は変わったかもしれない。でも私はまだ気づいていなかった。優美と、そして、私たちを包む闇の大きさに……」というモノローグが聞こえてきた。

 前述したように「同級生“連続不審死”」が予告されたドラマなのだから、今週「優美が死ぬのかも……」と思った視聴者が多いのではないか。当作はこのようなわかりやすくも不穏なフラグに沿って進んでいく。

 その後、望緒は同級生でIT企業社長の雨宮秀一(林遣都)、弁護士の本田玲子(本仮屋ユイカ)、地元でワイナリーを経営する深沢稜(溝端淳平)と協力して優美を夫から救い出そうと画策。しかし、ラストシーンで、優美は逃げる寸前で夫に飲ませようと毒を入れたワインを誤って飲んでしまう。さらに最後は岩崎奈々江(新川優愛)の殺人を望緒に告げて死んでしまった。

 これでイントロダクションに書かれていた ≪同級生“連続不審死”事件≫ がついに成立。早くも残りは、望緒、秀一、玲子、稜の4人に絞られた。それ以外の登場人物では、望緒と秀一を除くメンバーが話を避ける未登場の「中野くん」がいるが、現段階では彼が黒幕である可能性は考えづらい。

 もし残り4人の中に黒幕がいるとしたら、同じ長編ミステリーの『真犯人フラグ』(日本テレビ系)のように、「後から怪しい人物を追加して視聴者を混乱させる」ことはなさそうだ。両作は「人間ドラマより不穏さを優先させる」という脚本・演出の共通点がある反面、容疑者の数と広げ方に大差があり、これが「『愛しい嘘』の方が見やすい。ストレスなく見られる」などと言われるゆえんだろう。

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