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毎日新聞 2022/2/9 18:21(最終更新 2/9 18:21) 919文字




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密漁について警告する看板=松江市鹿島町御津で2022年2月9日午後0時42分、松原隼斗撮影

 2021年までの5年間に島根県の沿岸で起きたアワビやサザエなどの密漁について、漁業協同組合JFしまね(岸宏会長)が9日正午時点で1件も告訴せず、事実上放置していたことが、境・浜田両海上保安部への取材で分かった。関係者は「全く告訴しない例は聞いたことがない」と驚き、地元の漁師からはJFのずさんさに怒りの声が上がっている。

 県沿岸部の大半は共同漁業権が設定され、JFしまねが県から免許を受けている。組合員以外がサザエやアワビを捕れば漁業法違反(漁業権侵害)となり、100万円以下の罰金が科される。両海保は17年1月から21年12月の5年間で、県沿岸部でアワビやサザエなどを密漁したとして85件、103人を取り締まった。密漁されたアワビは計約150個、サザエは計約3000個。17年7月には大阪などから訪れた男性7人が大田市内でアワビ73個、サザエ619個を密漁する悪質なケースもあった。




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松江市御手船場町のJFしまね本所=2021年6月30日午後1時23分、松原隼斗撮影

 罪に問うためには被害者のJFしまねが告訴する必要がある。告訴期限は海保から通知を受けるなど密漁の事実を知ってから6カ月で、既に大半のケースで刑事責任を問えなくなっている。JFしまねの岸会長は本紙の取材に応じなかった。ある幹部は取材に、告訴していない理由は「不明」としながらも「漁師の生活に関わる問題だ。しっかり対応しないといけない」と述べた。

 今回の事態に、松江市魚瀬町の男性漁師(70)は「まさか」と開いた口が塞がらない。密漁に該当すると思われる行動を見かけた時は声を掛けて注意してきたといい、JFが放置することで密漁がさらに増えないかと不安を抱く。「漁師を守ってくれないのなら何のための組合か」と憤る。



 丸山達也知事は8日の定例記者会見で「みんなの財産を棚ざらしにしている。漁業権を持っていいわけがない」と激怒。「漁業権の取り消しが可能だ」と、JFしまねに早急な対応を迫った。県は同日、06年から20年までの漁業権侵害に対する告訴状況などを22日までに報告するよう求める文書をJFしまねに出した。

 JFしまねは県内の20漁協が合併して06年に設立された広域組合で、組合員数は約7000人。岸会長は全国漁業協同組合連合会の会長も務める。【松原隼斗】