軍がウクライナに侵攻するロシアでは各地で「戦争反対」を訴える抗議活動が続いている。当局による強硬な取り締まりによりデモは大規模化していないが、インターネット上で反戦を求める呼びかけには90万人以上が賛同。米欧などによる経済制裁の動きは市民生活にも影響を及ぼしており、戦争が長期化すれば、えん戦気分も広がりかねない。

 2015年に暗殺されたプーチン大統領の政敵ネムツォフ元第1副首相の命日を迎えた27日、殺害現場となったモスクワ中心部の橋の上は冥福を祈る人々で埋め尽くされた。ウクライナへの連帯を示すため、同国の国旗と同じ水色と黄色の花束やリボンを持った人が目立つ。中には「戦争反対」のプラカードを掲げ、周辺で警戒する警官隊に拘束される参加者もいた。

 花をささげた会社員のワレリアさん(26)は「ここに来るまで、モスクワでは地下鉄が動いているのにウクライナでは動いておらず、代わりに戦車が走っていると思うと、涙が出てきた」と話し、「家族の中にはプーチン氏の支持者が多い。でも、ウクライナの国民には同情せざるを得ない」と反戦の思いを語った。

 妻と子供と橋を訪れた音響エンジニアのイワンさん(27)は「隣国のウクライナには仲の良い知人が多い。胸が痛い」とため息をつき、「戦争に賛成の人と反対の人で社会は分断している。ただ、ロシア人にとって身近だった(ウクライナ南部)クリミアの編入の時と比べ、(プーチン)政権を支持する人たちの盛り上がりは低いと感じる」と述べた。

 戦争に反対する抗議活動はプーチン氏が「特別な軍事作戦」の開始を宣言した24日から続いている。ロシアの人権団体によると、最初の日曜となった27日には少なくとも約50都市で抗議の動きがあった。ただ、治安当局は反戦の動きを徹底して取り締まる姿勢を鮮明にしており、この日だけで約2500人が拘束された。24日からの累計の拘束者数は5000人を超える。しかし、そういった状況下でもあえて抗議に出る人が絶えず、ネット上で人権活動家が行う反戦の署名運動に賛同する人も増えている。

 ロシアではプーチン政権の影響下にあるテレビ各局がロシア軍の進撃を伝えるだけで、ウクライナでロシア軍の将兵に犠牲者が出ていることは伝えられてこなかった。露国防省は27日になって初めて「残念ながら犠牲者や負傷者がいる」と認めたが、「ウクライナ側に比べれば何倍も少ない」とするだけで実数を明かさない。

 ロシアの通信当局は26日からツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアの通信を制限した。ウクライナ国防省は27日時点でロシア軍の死亡者が「約4300人」と主張しており、SNS上ではウクライナで撮影されたロシア兵の遺体の写真や映像なども出回っている。このため、自軍の被害状況が社会に広く知られるのを阻止しようとしている可能性がある。

 ただ、ロシアではウクライナへの侵攻後、通貨ルーブルの価値が急落した。今後、物価の高騰が懸念されるほか、ロシア主要銀行への経済制裁を受け、ネット上の決済サービスを使えなくなる事例も出ている。現金を引き出す市民の動きも続き、一部の現金自動受払機(ATM)から紙幣がなくなるという事態も起こっている。市民生活への影響が増大すれば、国民の不満が高まる恐れもある。

 リベラル系野党指導者のルイシコフ・モスクワ市会議員は毎日新聞の取材に「ウクライナ侵攻はロシアにとって壊滅的な決定だった。自軍の損害も隠し通せない。このまま戦闘を続ければ経済的な損害は計り知れず、反戦運動も大規模になっていくだろう」と話した。【モスクワ前谷宏】

毎日新聞 2022/2/28 07:36(最終更新 2/28 07:37) 1488文字
https://mainichi.jp/articles/20220228/k00/00m/030/012000c