<女性たちのカラカサン・上>

 新型コロナのまん延は、女性たちの生活を直撃している。とりわけ、苦境に追い込まれているのは立場の弱い外国人女性たちだ。川崎市内に拠点を置く市民団体「カラカサン」はそんな女性たちの支援を続けている。団体名はタガログ語で「力」の意。女性差別をなくすために行動する三月八日の国際女性デーを前に、互いに支え合う女性たちの歩みを追った。(竹谷直子)
 「クマインカナ(ご飯食べた?)」。幸区にある古い木造二階建てのアパートの一室で今月二日、カラカサンの共同代表を務める西本マルドニア=通称・ドーナ=さん(66)が、事務所を訪れた女性にタガログ語で声を掛けた。

 部屋には、酸味のあるスープ「シニガン」などフィリピン料理が並ぶ。集まった女性たちはそれぞれご飯を食べながら雑談したり音楽を聴いたり。そんな様子をドーナさんは「ここに来るとみんなおなかいっぱいになる」と笑顔で見守った。
 事務所に訪れる女性の多くは、日本人の夫からDVを受けるなどしたシングルマザー。心の傷を抱えた女性たちにドーナさんは、毎週二?三回、古里のフィリピン料理などをふるまう。
 現在、スタッフはボランティアも含めて十三人。ほかにも百人以上のフィリピン人や日本人メンバーがいる。あらゆる困難に直面しながらも、ここでは女性たちが自立を目指して互いに支え合っている。

 ドーナさんがDV被害を受けたシングルマザーたちとカラカサンを立ち上げたのは二〇〇二年。「私と同じような女性はたくさんいる。その人たちの力になりたかった」と振り返る。
 ドーナさんもかつて、日本人の夫からDV被害を受けたサバイバーだ。小さいころから日本へのあこがれがあり、フィリピンの日本料理店で働いて日本語の勉強もした。
 初めて来日したのは一九八二年。フィリピンに残してきた二人の子どもの養育費を稼ぎたかった。知り合った日本人男性と結婚したが、殴る蹴るの暴力を受け、警察に相談しても「家庭内のことだから」と相手にされなかったという。友人の紹介で二人目の夫にも出会ったが、結婚するとまた暴力が始まった。「警察も役所もだれも助けてくれなかった」とドーナさん。そんな中、カラカサンの前身の団体に出会い、二人目の日本人夫とも無事に離婚できた。
 コロナ禍で、非正規雇用の多いシングルマザーを中心に、外国人女性の暮らしは厳しさを増している。支援する女性たちの生活も楽ではないが、ドーナさんは「お金のない人でも相談できるカラカサンのような場所が一番必要。日本に住んでいる外国人が立ち上がれるまで、最後まで支援し続けたい」と話した。

<国内の外国人労働者> 人手不足を補うため、国は1990年からの段階的な入管法改正で外国人労働者の受け入れを拡大。出入国在留管理庁によると、日本で暮らす外国人は2021年6月末で282万3565人。厚生労働省によると、外国人労働者は172万7221人(同年10月現在)で過去最多になった。国別ではベトナムが最も多く全体の26%、中国(23%)、フィリピン(11%)が続く。

東京新聞 2022年2月28日 07時07分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/162714