新型コロナウイルス対策で、首都圏などで21日まで延長されたまん延防止等重点措置を巡り、専門家が対立している。経済学者は「高齢者以外の重症化リスクは低い」と延長に反対。医療系の専門家は「オミクロン株の致死率は季節性インフルエンザより高い」と必要性を主張した。ただし、飲食店中心の対策を疑問視する声は多い。オミクロン株の特性を踏まえた具体的な議論が求められている。(沢田千秋、原田遼)

◆脇田座長「対策しているから今がある」と意義強調
 18都道府県で重点措置を延長する政府案を了承した4日の基本的対処方針分科会。尾身茂会長は出席した委員18人のうち2人が反対したと明らかにした。その1人、大竹文雄・大阪大特任教授(労働経済学)は「オミクロあン株の重症化リスクは高齢者と基礎疾患がある人に偏る。ワクチン3回接種を終えたら、そのリスクも非常に低くなる」と延長に異議を唱えた。
 大竹氏は2月18日の会合でも、17道府県の重点措置延長に反対。「オミクロン株は、肺炎の発生頻度が季節性インフルエンザより相当程度高いという重点措置の実施要件を満たしているのか」と迫った。これを受ける形で、厚生労働省に感染状況を助言する専門家組織アドバイザリーボードは2日、オミクロン株の致死率は0.13%で季節性インフルエンザより高いというデータを公表した。
 専門家組織の座長、脇田隆字・国立感染症研究所長は「推計の仕方が異なるので比較は難しい」と説明した上で、「現状の対策を緩和したら、どのぐらい社会にインパクトがあるか議論する。対策をやってるから今がある」と、従来の感染対策の意義を強調した。

◆経済学者・大竹氏は重点措置の効果自体に懐疑的
 一方、大竹氏は重点措置の効果自体に懐疑的だ。飲食店の時短要請について「非常に大きな金額の協力金が支払われているが、重点措置前から夜間人流は減っており、追加的な顧客減少効果は比較的小さい」と指摘。専門家組織の資料では、全国の新規感染者の感染場所は1月上旬は飲食店が最多だったが、東京都などで重点措置が出る前に急減。今の感染の中心は学校や高齢者施設に移っている。
 重点措置の効果を測る明確な試算はない。感染が拡大すれば、人々は自主的に接触機会を減らすため、重点措置そのものの貢献度は見えにくいからだ。
 ただ、2月下旬に重点措置が解除された5県のうち沖縄県など3県では、新規感染者が増加した。脇田氏は「われわれが重点措置の効果として期待するのは、飲食店の時短要請ではない」と明言。重点措置期間中の高齢者施設や学校での感染抑制が重要と述べた。
 それに対し、大竹氏は「これだけ感染者が多い中、政府も知事も何か対策を取っていると見せないと支持が得られない。そういう対策の効果、いくら金が使われたか検証するのが経済学者とメディアの仕事だ」と訴え、分科会メンバー交代の必要性にまで言及する。
 尾身氏は4日の会合後、「飲食店だけ税金を使って制限することについて、少し考えた方がいいという意見は常にある」と述べた。

東京新聞 2022年3月6日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/163907