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[FT]兵器になるネットワーク 相互依存、危うい安定 ラナ・フォルーハー
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB090Y40Z00C22A3000000/
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「武器化するネットワーク」という概念は米ジョンズ・ホプキンス大学のヘンリー・ファレル教授と米ジョージタウン大学のアブラハム・ニューマン教授が2019年の論文で発表、近くその書籍「Under Ground」も出版される。ネットワーク効果が21世紀の公的部門と民間部門の担い手に様々な手段を提供する一方で、多くのリスクももたらしていると論じている。

ウクライナでの戦争をみれば、二人の理論通り事態が展開していることがわかる。彼らが指摘するように「グローバル化は自由主義の秩序を一変」させた。 「国家間で交渉していたことが民間部門のネットワークが担うようになり」、自由主義の秩序は変質した。...

つまり、「戦争はもう古い手段」などではないということだ。
それどころか今の相互依存関係は武器化されており、この時代を生き抜くには決済システムからSNS (交流サイト)上の言論の動向、供給網、ガスパイプラインといった主要なネットワークを支配できていることが極めて重要ということだ。...

技術によって相互接続され大規模化、高速化された今のネットワークは戦争に取って代わるどころか、戦争の展開スピードまでも加速させる。ここ数日ウクライナで起きたことは、以前なら数週間か数カ月かかった。戦場に軍隊などの公的組織だけでなく民間組織も加わるようになったことで戦争は複雑さを深めている。今や企業やコミュニティー、国家がすべてネットワークの結節点(ノード)となっており、彼らは互いに協力もできるが競合することもある。...

官民のネットワークがこれでになく複雑に結びつくようになったことで、ロシアのウクライナ侵攻とは関係ないと思えるところにまでリスクや恩恵が広がっている。一連の西側による制裁でドル建ての取引が減れば、中国の人民元は恩恵を受ける。だが中国政府が進めるロシアを通ってユーラシア大陸を横断する鉄道網による貿易のさらなる拡大はもう難しいだろう。ウクライナでの戦争を20世紀型の戦争とみる向きは多いが、全く違う。大国の覇権争いが中心にあるのは確かだが、サイバー空間など戦いの場も、偽情報の拡散など攻撃のありようも進化している。効率重視でグローバル化された市場があれば戦争が起きる確率は低くなる、あるいは戦争を起こしても起こした側が意図した成果はもはや上げられなくなった、と考えられてきた。確かに今回の戦争でロシアはほば確実に世界ののけ者となり、中国の属国になるかもしれないことを考えると、武力行使の有効性は既に低下しているといえるかもしれない。

しかし、かって「マクドナルドが出店している国同士は戦争しない」と言われたが、旧ユーゴスラビアが崩壊し、北大西洋条約機構(NATO)軍がセルビアを爆撃して以来、この説は崩壊した。米ファストフードチェーンの進出が増えても、西側とロシアや中国との関係悪化阻止につながったわけでもない。
むしろウクライナでの戦争で各国が互いに複雑につながっていることが様々な影響をもたらすことが浮き彫りになった。各国が団結してロシアに制裁を科したように、互いにつながっているネットワークはより強いカの発揮につながる。だが同時に、ロシア制裁に伴う西側諸国が直面するエネルギー問題は、相互依存関係にあること自体が脆弱性を強めたり和らげたりできることも示した。

お互いになくてはならない依存関係にあるからといって戦争が減るわけではないのだ。筆者は戦争をするのは人間の本質の一部ではないかとの懸念を深めている。ただ、戦争に踏み切った際の行く末は、今やこれまで以上にずっと予測不能になってるのではないか。