? 韓国で結婚しない人が増えている。2020年に30代の未婚率は42.5%で初めて4割を超えた。しばしば就職難や住宅事情の悪さが原因に挙がるが、どうなのか。18年に東京の出版社を辞めてソウルに移住し、若者文化を取材するフリーライター、東山サリーさん=年齢非公表=が婚活体験談を話してくれた。(聞き手、ソウル・相坂穣)

 「30代中盤以降なら3000万円は貯金がないとだめ。大企業社員、医師や弁護士など地位がなければ結婚は難しい」。韓国人の女友だちの言葉を聞いて、私は「ここはバブル時代の日本だろうか?」と思った。
 韓国で伴侶を見つけるハードルは実際高いようだが、私も結婚をしたい気持ちがある。ソウル市内の結婚相談所を訪れてみた。20年くらい前の韓流ドラマに出てくるような派手なインテリア。相談員のおばさまが「韓国一の2万人を超える会員を持ち、エグゼクティブ(上級)な男性が多数登録している」と語った。
 男性を紹介してもらうにはお金がかかる。学歴や職業など「スペック」に応じて、日本円で25万円ほどを払って3人と会えるものから、350万円という高額コースまでさまざまだ。こちらの性格や希望を踏まえ、2人の男性を「仮紹介」してくれた。
 1人目は、「46歳の初婚。テレビ番組制作プロデューサー。両親は健在。年収が高く、童顔で若く見える。マンションを所有しているので、すぐに結婚できる」そうだ。2人目は「42歳の初婚。歯科医師。見た目はシュッとしている。年収も申し分なく、マンション2軒を所有しているので、結婚してもなんの心配もない」という。
 こんな条件の良い人たちがなぜ、結婚していないのかと首をかしげる私に、おばさまは「仕事が忙しくて、必死にお金をためて、やっと自分の城を持ち、安心できたから結婚したいという気持ちが出てきたのよ」と、訳知り顔で語った。
 結婚後の金銭面でのリアルな生活を想像できるが、むしろ結婚を甘く見ていないか。性格や道徳観、食事のマナーの相性が合わなければ、人生を共に歩めないのではないだろうか。私はそんなことを考え、入会はいったん保留にした。
 超学歴主義で子どもの頃から猛勉強し、大学入試を乗り越えたら、財閥企業へ入社するために、また熾烈しれつな戦いが待っている。就職のために外国語習得やボランティア活動をする。そして、この国は高身長や顔立ちを徹底的に気にする外見至上主義だと思う。
 韓国にあこがれて移住して4年。高い向上心を持った若者たちによく出会う。Kポップやドラマなどのエンターテインメントも素晴らしいし、おしゃれなカフェも多い。でもあまりに生きづらそうだと思う。この国に住む人たちは、一体いつまでスペックを高めるために身を粉にして努力し続けなければならないのか。外国人の私が勝手に自分の正義を押し付けているだけなのか。答えが出ないまま、未婚でいる。(談)

東京新聞 2022年4月25日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/173769