日本の「敵基地攻撃能力」に韓国の反応は? 対北朝鮮で複雑な感情 朝鮮半島情勢不安定化の懸念も

 日本政府が目指す敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有について、韓国の尹錫悦ユンソンニョル政権は理解を示す一方、韓国世論には警戒感も根強い。その韓国も、ミサイル発射地点を先制的にたたく防衛システム「キルチェーン」の整備を進める。しかし敵の攻撃能力を無力化しようという日韓共通の姿勢は、朝鮮半島情勢を不安定にするとの懸念も出ている。(ソウル・木下大資)
◆世論「日本が再び戦争できる国になる」根強く
 「平和憲法の精神を損なわない範囲内で、地域の平和と安定に寄与する方向で行うとみている」。韓国の趙賢東チョヒョンドン外務第1次官は5日の国会で、日本の敵基地攻撃能力を含む防衛力強化に一定の理解を示した。
 尹大統領も先月のロイター通信のインタビューに「日本列島の頭上をミサイルが飛んでいくのに放置するわけにいかないだろう」と防衛力強化を容認する姿勢をみせた。北朝鮮の核・ミサイル開発が進展する中、尹政権は日米韓の協調を重視する姿勢を鮮明にする。
 一方、韓国世論は「日本が再び戦争できる国になる」との警戒感が根強い。外交当局は、朝鮮半島有事の際に「日本の自衛隊は韓国の承認なしにわが国の領域に進入できない」と強調して世論に配慮する。
◆韓国が先制打撃強調→北が攻撃能力強化の悪循環
 北朝鮮は実戦使用を想定した戦術核を持つことで、米韓に対する通常兵器での劣勢を挽回しようとしている。小型の戦術核を搭載できる変則軌道のミサイルは迎撃が難しく、尹氏は攻撃の兆候を探知して発射地点や指揮系統を先制打撃するキルチェーンが必要だと主張してきた。
 北朝鮮はこれを意識してか、移動式発射台に加え列車や貯水池からの発射など、ミサイルの運用方法を多様化している。9月には核使用に関する法令を定め、「敵の攻撃で指揮系統が危機に直面すれば、自動的に核攻撃を断行する」との条項も盛り込んだ。
 韓国のシンクタンク世宗研究所の金廷燮キムジョンソプ副所長は、相手の攻撃能力を無力化しようとする試みが、さらなる能力強化を招く悪循環が起きていると指摘。「抑止は『核を使用すれば耐え難い報復を受ける』というメッセージに集中すべきだが、先制打撃を強調すれば、相手にとっては無力化される前に撃とうとする圧力が強まる」と危ぶむ。
◆識者「先制核使用を誘発しないよう状況管理を」
 偶発的な衝突の危険は高まっている。米韓は、米国の核兵器を含む軍事力で相手の核攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」戦略の一環として、原子力空母などを投入した合同演習を強化。北朝鮮は強く反発し、今年はすでに過去最多の60発超の弾道ミサイルを撃った。南北双方が海上の北方限界線(NLL)を越えて射撃したケースもあった。
 金氏は日本の敵基地攻撃能力の保有に理解を示しつつ、「北朝鮮への抑止力を強化するだけでなく、先制核使用を誘発しないよう状況を管理することが大切だ」と話す。

東京新聞 2022年12月14日 06時00分
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