岸田文雄首相は16日、首相官邸で韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と会談した。首脳間の相互訪問の枠組み「シャトル外交」の再開で一致した。首相は会談後の共同記者会見で、韓国政府による元徴用工問題の解決策を「評価している」と表明した。

首相は会談で「日韓関係の新たな章を共に開く機会が訪れたことをうれしく思う」と伝えた。「日韓の首脳が形式にとらわれず頻繁に訪問するシャトル外交の再開で一致した」と説明した。

尹氏は「両国のシャトル外交を積極的に歓迎する。岸田首相と緊密に意思疎通を図りながら、両国の新たな時代に向けてともに努力していきたい」と強調した。

韓国大統領が日本を訪問して首脳会談をするのは国際会議にあわせたものを除けば2011年以来、およそ12年ぶりとなった。

11年以降途絶えていたシャトル外交の再開を機に、日本政府は5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)の拡大会合に尹氏を招待する方向で調整している。首相は記者会見で「今後適切な時期に訪韓を検討することになる」と説いた。

首相は韓国の財団が元徴用工問題で日本企業の賠償を肩代わりする解決策について「非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している」と言明した。

両首脳は植民地支配への「痛切な反省と心からのおわび」を明記した1998年の日韓共同宣言を継承する立場を申し合わせた。首相は「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいると確認した」と説明した。

16日朝に大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のミサイルを発射した北朝鮮についても協議した。首相は「日米同盟、韓米同盟の抑止力、対処力を一層強化し日韓、日韓米の安保協力を力強く推進していく重要性を確認した」と語った。

両首脳は会談で政府間の意思疎通を活発にすることで一致した。首相は「まず長い期間中断していた日韓安全保障対話を早期に再開する」と表明した。半導体などの重要物資のサプライチェーン(供給網)の強化に向け「経済安全保障対話」の創設も合意した。

経済産業省は16日、日本が19年に導入した韓国への半導体材料3品目の輸出管理の厳格化措置を解除すると発表した。韓国政府も厳格化措置を受けて進めてきた世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きを取り下げると決めた。

尹氏は輸出管理の厳格化措置の解除に触れ「ホワイト国への早急な回復に向け、緊密な対話を続ける」と話した。

日本経済新聞 2023年3月16日 16:49 (2023年3月16日 18:54更新)
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