【ソウル=木下大資】日韓首脳会談から一夜明けた17日、韓国メディアは保守系・革新系を問わず、元徴用工問題を巡る日本の対応に厳しい反応を示した。岸田文雄首相が被害者への慰労や謝罪に言及せず、韓国政府が示した解決策への「呼応」がなかったと受け止められている。訴訟の原告支援団体や野党は強く反発した。
 保守系紙の社説は、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化などを歓迎。「韓日が2019年7月(日本による対韓輸出規制の発動)以前の関係に戻る基盤が用意された」(中央日報)などと一定の評価をした。
 だが徴用工問題に関しては、一様に「失望」を表明。岸田氏が歴史認識について「歴代政権の立場を引き継いでいる」とだけ述べたことに、東亜日報は「日本は許される機会を逃した」と指摘した。朝鮮日報は「信頼が築かれれば、今回解決できなかった懸案も解決できるだろう」と今後に期待をつないだ。
 革新系のハンギョレ新聞は「韓日関係の悪化を18年の最高裁判決のせいにし、日本企業に免罪符を乱発した」と尹錫悦ユンソンニョル大統領を批判。「日本の外交的圧勝だ」と恨み節をつづった。
 尹氏は16日の会見で、18年の最高裁判決が「それまでの政府の1965年請求権協定の解釈とは異なる内容だった」と言及。今回打ち出した解決策では、韓国の財団が賠償を肩代わりした後に被告企業に返還請求をする権利「求償権」の行使は「想定していない」と述べた。
 韓国では革新陣営を中心に、65年協定は日本の植民地支配の不法性を認めておらず不十分な合意だったとの認識が強い。革新系の最大野党「共に民主党」の李在明イジェミョン代表は「大統領の5年の任期後、国家政策の最終決定権者は別の人になる。誰が今確実なことを言えるのか」と反発した。
 政府の解決策を拒否する原告の梁錦徳ヤンクムドクさんらを支援する市民団体は16日夜に声明を出し、「被害者の人権や国民の自尊心をすべて明け渡した」と尹氏を非難した。
◆これで日韓関係が発展するのか
<南基正ナム・ギジョンソウル大日本研究所教授の話> 徴用問題に関し日本側が主張してきた「1965年の韓日請求権協定で解決済み」との論理がそのまま反映された。2018年の韓国最高裁判決後に進展を期待した被害者たちに絶望を与える内容だ。韓国内では多くの人が納得できず、不満が出るだろう。
 日本の植民地支配は不法だったというのが韓国政府の一貫した立場だ。98年の「韓日パートナーシップ宣言」など日本政府の立場表明は、65年協定で十分にカバーできなかった両国の立場の違いを補おうという努力の跡が見られた。岸田首相が今回「受け継いでいる」と主張することには矛盾があり、意味がない。徴用被害者への言及が一切なく、「呼応措置」といえるものもなかったのは残念だ。これで日韓関係が発展するのかと問いたい。 (聞き手・木下大資)

東京新聞 2023年3月18日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/238661