電気代の高騰は一般家庭だけではなく、大学も揺るがせている。東京・上野の東京芸術大では3倍に急上昇し、経費削減を迫られる日々。そんな現状に黙っていられないと、客員教授を務める歌手さだまさしさんらが今月15日に構内で一風変わったコンサートを企画している。その名も「電気代を稼ぐコンサート」。 (浜崎陽介)
 きっかけは昨年11月、同大で開かれたバイオリニスト澤和樹さんの学長退任記念公演だった。さださんと澤さん、デザイン科の箭内やない道彦教授とのトークコーナーの中で電気代高騰が話題になった。終演後、さださんが箭内教授に「芸大の力になりたい」と語りかけた。

 コンサートのタイトルはさださんが命名。さださんと箭内教授がプロデュースし、澤さんや落語家の立川談春さんらも出演する。油画専攻の学生たちによるライブペインティングなどもある。9000円するチケットは完売済みだ。経費を差し引いた利益の数100万円を電気代に充てる。
 ロシアのウクライナ侵攻による電気代の高騰は、同大の財政を直撃した。大学美術館の収蔵庫の常時空調、窓が開けられない音楽学部のホールや練習室の空調、美術学部の電気窯…。学びの環境を維持するには電力消費が避けられないが、総務課によると、2022年度の電気代は当初見込んだ1億2700万円から3億6400万円にまで膨らんだ。
 大学側は、ホームページで電気代への支援を呼びかけているほか、古くなったピアノ5台を撤去して年間の調律費12万円をカットするなどの経費削減を進めている。総務課の担当者は「学内にはピアノが約300台あり、学生に影響はない」と説明するが、学生からは「高級なピアノも維持できず減らされるのでは…」と不安の声が漏れる。
 コンサートの利益で電気代の増加分をすべて賄えるわけではないが、器楽科4年の女子学生(21)は「名前のインパクトが大きくて面白いと思った」と期待する。

 箭内教授は本紙に「このコンサートが1話完結でなく、寄付の増加等につながり、芸術を志す学生たちが安心して学ぶ場を維持できる小さなきっかけになったら幸いです」とのコメントを寄せた。

東京新聞 2023年4月9日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242975