黒田早織 小野大輔2023年4月21日 11時00分

 兵庫県警内で「快挙」があった。殺人などの捜査を指揮する捜査1課長が、1年間の在任中、捜査本部を一度も設置しないまま退職したのだ。かつて神戸連続児童殺傷などの重大な捜査本部事件が頻発した兵庫に、何が起きたのか。

 テレビ朝日系のドラマ「警視庁・捜査一課長」シリーズには恒例の場面がある。

 殺人事件の現場に急行した捜査1課長が遺体に手を合わせ、状況を確認した後に部下へ告げる。「ヤマさん、○○署に特別捜査本部を設置する」――。

 (特別)捜査本部とは、ある特定の事件の解決のため、事件が発生した場所を管轄する警察署などに臨時に設置される、専従の捜査チームを指す。都道府県によって「特捜(トクソウ)」や「捜本(ソウホン)」と呼ぶ。

 国の犯罪捜査規範では、「重要犯罪その他事件の発生に際し、特に、捜査を統一的かつ強力に推進する必要があると認められるとき」に設置すると定められている。

 罪名や事件規模に明確な基準はないが、一般的には、殺人のような社会的反響の大きい事件で容疑者がすぐに確保されていないケースなどがあてはまる。

 県警刑事企画課によると、目撃情報や証拠は時間が経つほど見つけづらくなるため、捜査員を初動から大量投入できるのが捜査本部のメリットだという。

 容疑者が逮捕されれば捜査1課長と警察署長が会見を開くのが慣例で、大事件の際はテレビ中継されるなど、ニュースでも目に触れる機会も多い。

 だが昨年3月から県警捜査1課長を務めた永菅(ながすが)信弘さんの場合、捜査本部を設置する重大事件のないまま3月下旬に定年退職を迎えた。退任の際、永菅さんは取材に対し「それだけ市民の安全が保たれていたと言える。喜ばしいこと」と話した。

 県警によると、記録のある1995年以降、「捜査本部を立てなかった1課長」は初めてとみられる。

 95~2022年で見ると、捜査本部事件は年間平均で5・0件起きており、最も多かったのは97年の13件だった。(黒田早織、小野大輔)

https://www.asahi.com/sp/articles/ASR4H43LJR4BPIHB00S.html

 兵庫県内ではこれまで、神戸連続児童殺傷(97年)や神戸テレクラ放火殺人(00年)、JR宝塚線(福知山線)脱線事故(05年)、神戸市北区高校生刺殺(10年)、尼崎連続変死(11年)など全国的に注目を集める事件が数多く起き、捜査本部が立てられてきた。