【ワシントン時事】米野党・共和党が、人工妊娠中絶の権利を擁護するバイデン政権の施策に反対し、軍の人事や予算面で揺さぶりをかけている。上院では承認が滞り、軍の幹部人事が決まらない状況が続く。伝統的に超党派で合意してきた安全保障問題を「政争の具」へと変えた形で、与党・民主党は頭を抱えている。
 事の発端は、中絶の憲法上の権利を否定した昨年の連邦最高裁判決だ。中絶の規制権限は各州に委ねられ、中絶を事実上禁止する州も出始めた。国防総省は女性兵士の権利を確保するため、他州で中絶手術を受ける場合に旅費を補助する制度を導入した。
 これに共和党の一部議員が反発した。上院軍事委員会では、タバービル委員が軍幹部の人事に反対を続け、既に260人以上の人事が停滞。10日にバーガー前総司令官が退任した海兵隊は、後任が決まらないまま、164年ぶりにトップが不在となる異常事態に陥っている。
 下院では14日、中絶を希望する女性兵士への旅費援助を禁じる共和党修正案を加えた形で、国防予算の大枠を決める国防権限法案が可決された。少数派の民主党は、修正案を「過激で無謀」(ジェフリーズ院内総務)と非難。ほぼ全ての民主党議員が反対票を投じた。民主党が多数派の上院も独自の法案を準備しており、下院案がそのまま成立することは考えにくい。
 ただ、中国やロシアとの対抗がますます重みを増す中、軍の活動を停滞させれば民主党は政権与党としての責任を問われるジレンマも抱える。安全保障を「人質」に取る共和党に対し、バイデン大統領は「全く無責任だ」と怒り心頭だ。2024年大統領選や同時に行われる議会選に向けて共和党側は対決姿勢を強める一方とみられ、事態の打開は容易ではない。

時事通信 2023年07月16日07時02分
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