外国人観光客が「喫煙所難民」になっている――。新型コロナウイルスの感染対策が緩和されて観光地に活気が戻る中、こんな話を耳にした。路上喫煙の禁止が拡大する日本で、外国人観光客が一服する場所を求めてさまよっているという。喫煙環境の不備はマナー違反の増加につながるとの懸念もあるが、実態はどうなのか。2025年の大阪・関西万博開催で、海外からの来訪者がさらに増えるとみられる大阪の街で調べてみた。

「喫煙所分かりにくい」
 6月中旬、平日の昼下がり。大阪市の繁華街・ミナミは写真撮影や飲食を楽しむ外国人観光客で混雑しており、インバウンド復興を実感させる。大勢の若者らが行き交うこの街は、路肩に捨てられた吸い殻も目立つ。


 市中心部を南北に縦断する御堂筋から一歩路地に入ると、日本人と並んでたばこをくゆらす外国人の姿があちこちで見られた。

 ミナミでは御堂筋が07年から、長いアーケードが続く戎橋筋と心斎橋筋が19年から、路上喫煙禁止地区に指定された。付近には市が2カ所の屋外喫煙所を設置している。


 ドイツ・ベルリンから訪れた会社員のリサ・ファイエルさん(29)は喫煙所が見つけられず、「グリコの看板」で有名な道頓堀付近で座り込んでいた。

 ベルリンでは建物外や路上ならどこでも喫煙できるため、灰皿やごみ箱が容易に見つかるという。リサさんは禁煙化が進む日本の取り組みに感心しながらも、「喫煙所が分からないので吸い殻が落ちている場所を頼りに吸っている」と漏らした。


 インドネシア・ジャカルタから来たハディさん(53)は同行の妻が喫煙者だ。喫煙所の場所を尋ねて探し歩いているが、なかなかたどり着かない。ハディさんは「日本の喫煙エリアは分かりにくい。案内表示をもっと大きくするといいのでは」と訴えた。

 この日の午後3時ごろ、南海難波駅前の喫煙所を利用していた16人のうち4人が外国人だった。再開発が進む駅前はフェンスに囲まれ、喫煙所は見えづらい位置にある。韓国・ソウル在住の夫婦は「場所は知らなかったが、においをたどって探し当てた」と笑顔を見せた。


 周辺の店舗は日本人を含めた喫煙マナーに頭を悩ませる。御堂筋沿いの自転車販売店では、店の周りで喫煙する人が後を絶たない。店員の多田彩英さん(22)によると、多い時には1日で100本超の吸い殻が落ちているという。多田さんは「日本人が喫煙しているのを見て外国人も吸っていい場所だと勘違いしているようだ。これといった解決策がなく、手を焼いている」と困惑する。

京都は違反者の4割が外国人
 大阪市はミナミの他にもJR大阪駅周辺や天王寺など、六つの地域を禁止地区に指定している。対象エリアでは指導員が巡回して、違反者には過料1000円がその場で科される。

 市によると、22年度の違反総数は4225件で、コロナ禍前の18年度より65件減少した。市担当者は「日本人の喫煙者には過料制度が浸透しつつある」とみているが、インバウンドが活性化すると、外国人の違反者の割合が高まる傾向にある。18年度は17%で、制度が始まった07年度以降、最も割合が高くなった。

 近畿の主要都市の状況も調べてみた。外国人旅行客に人気の京都市は、年々外国人の違反者の割合が高まり19年度には40%に達した。神戸市も同様で、19年度は10%で過去最高だった。奈良市は処分事例がなく、和歌山市と大津市は罰則規定を設けていなかった。

 日本政府観光局(JNTO)によると、23年5月の訪日外国人数は約190万人で、コロナ禍前の19年同月比で68・5%まで回復した。観光需要の回復とともにマナーの徹底も急がれるが、御堂筋に店を構える男性(67)は「外国人だけを責めることはできない」と話す。

 男性は過料制度を知らない外国人が指導員ともめている様子を見たことがあるといい「近くには路上喫煙禁止や過料を知らせる看板や情報も少ない。行政が本腰を入れない限り、路上喫煙は減らないのではないか」と言う。

 民間のアンケート調査からも外国人観光客の困惑が見てとれる。

 「地球の歩き方」が運営する多言語旅行情報サイト「GOOD LUCK TRIP」は5月、海外の喫煙者を対象にアンケート調査(237人が回答)を実施した。

 日本旅行で困ったことについて、最も回答が多かったのが「喫煙できる場所の少なさ・分かりにくさ」(44・3%)だった。さらにその6割が日本では喫煙できる場所が少ないと答えた。(以下ソースで)

毎日新聞 2023/7/16 08:00(最終更新 7/16 08:00) 2382文字
https://mainichi.jp/articles/20230714/k00/00m/040/232000c